コラム

地酒はその土地の食べ物が一番合うって本当?

日本酒の世界でよく言われることの一つに「その酒が作られたのと同じ産地の食材は相性がいい」というものがあります。

この産地ペアリング(という言い方があるのかは知りませんが)の概念は日本酒に限らず、ワインの世界でもポピュラーです。ワインの世界では「テロワール」という言葉を使いますね。ただ、個人的に日本酒に限っては懐疑的な見方を持っています。

前提条件

まず、前提条件から。この話はあくまで同じ食材同士で産地を比べないと意味がありません。

例えば、宮城の日本酒とどこかの鯛を合わせるなら、外国産の鯛よりも地元宮城産の鯛のほうが合う(かもしれない)ってことですね。

極端な例ですが、ここで合わせる相手が宮城産の生クリームと外国産の鯛だったら、外国産であっても鯛のほうが合うに決まってるわけで、そういうしょうもない話をしたいわけではありません。

なぜ同じ産地だと相性がいいのか

さて、産地を合わせるとなぜ相性が良くなると言われているのでしょう。

1.成分説

もっともわかりやすいのが、同じ産地同士の食材は共通する化合物を含んでいるため、調和しやすいという論拠。

例えば、同じ土壌から育った野菜同士だとか、その野菜を食べて育った肉だとか、そういったものにはミネラルや香りに影響するような成分が共通している、もしくは成分比が似ているから相性が良いと。

日本酒の世界でも、その土地の水を使った酒は同じ水で育った作物と相性がいいとよく言われます。

2.杜氏の生育環境説

その地方の食物を食べて育った人が作る酒は自然とそれに合わせた味になりやすい、という説もあります。

分かりやすい例でいうと、海沿いの蔵で作った酒は魚をたくさん食ってきた杜氏による造りだから魚に合うような味わいになるだろ、みたいなやつです。

3.風土と食文化説

最後に、生育環境説とちょっと似てますが、酒も料理も風土が生み出すもので、長年その土地で親しまれてきたもの同士なんだから合うはず、というもの。

言ってみれば風土が育んだ食文化を論拠としているわけですね。

成分説について

まず、摂取する食物によって味が変わるのはわかります。例えば完全放牧の牛肉と配合飼料で育った牛肉では明らかに風味も異なりますから。

仮に品種も土壌も肥料も農法も同じ野菜があったとしたら、それは同じような味になるでしょう。

ですから完全にテロワールにこだわった食物と、同じ土地のテロワールにこだわった酒同士であれば、あるいは何か共通する風味なども現れるかもしれません。

しかし、現実的にはその産地由来ではない成分を含んだ肥料なども普通に使ったりするわけです。家畜であれば配合飼料を与えたりとか。

日本酒造りでも米は地元以外の産地のものを使うことが普通です。萬乗醸造(醸し人九平次)や松本酒造(澤屋まつもと)などに代表される自社田を持ったりテロワールにこだわった地産地消を目指している蔵もありますが、まだまだ少数派です。

水はその土地のもので共通するとしても、材料のうちで大きな比率を占める米が違う時点で、この説に対しては若干微妙な匂いが漂ってきます。

杜氏の生育環境

それから、2.の生育環境ですが日本酒に詳しい人ならもうお分かりですね。杜氏はその蔵の土地の出身者とは限りません。ヘッドハンティングして連れてくることも多々ありますし、所属蔵の移籍が当たり前に行われる世界です。

よしんば、その土地の出身者であったとしても、肉が好きな人もいれば魚が好きな人もいるでしょう。味の嗜好性なんて千差万別。それをある地方の出身者だからってひとくくりにするのは明らかにおかしいと思いませんか?

風土と食文化

これも乱暴ですねえ。確かに単発で見ていけば、それぞれの土地ならではの相性のいい組み合わせはいくつも存在するでしょう。ただ、それをすべてまとめて論じてしまうのは無理があります。

食文化の観点でいうならば、例えば関西圏は薄味でダシをメインにもってくる傾向にありますが、一方で日本酒はしっかりとして濃醇な傾向があります。逆に東北の料理はしっかりと濃い味付けをする傾向にありますが、日本酒は淡麗の方向が多いです。これってどう説明するんでしょう?

そして、決定的なのは日本の食文化において、そもそも食事と酒をマリアージュさせる概念がなかったという事実。

古来より「酒肴」として供された料理はありましたが、基本的には酒を引き立たせるためにどれも塩辛いものでした。酒と合うか合わないかと言えば、そりゃあ合いますが、逆に言うと地方に関わりなくどんな酒にも合うと思われます。その文脈からしたら酒の肴と食事における料理を同じものとして扱うのは少々無理があります。

また、江戸時代はもとより昭和初期に至るまで昔の酒は今と明らかに違う味だったと言います。技術的な面からも当時の酒は今に比べたら相当不味かったはずです。それに昔は樽に入れて運ぶのが主流だったため、杉の香りが酒に移っていたでしょうし、酒屋で加水もしていたようです。

要するに、論議の対象となる酒そのものが今とは全然違う代物だったわけです。大昔の酒の味を守り続けている、もしくはそれを基にアップデートしているというなら話はわかりますが、恐らくは技術革新もあって、その土地の食文化の流れからは完全に飛躍した変化を遂げているはずです。

これらを踏まえた上でも「その土地が育んできた食文化が云々」なんてことをまだ言えますか?

思考停止はよろしくない

まあ、実際のところ、同じ食材でもって比較実験をしたわけではないので真偽のほどはわかりません。成分説に関しては、ある共通するファクターがあればそれで成立する面もありますので、もしかしたら…という気もしていますし。

ただ、なんというか「産地を合わせるといいですよ!」と主張する人に限って、あんまり深く考えてないというか、みんながそう言ってるし、なんとなく地方がんばってる感出るしイメージいいから、みたいな理由が見え隠れするのは私だけでしょうか。感情的というか情緒的な理由ですね。本当に合うのか科学的根拠を示して検証してから物を言え!とまでは言いませんが、どうにも思考停止臭がするというか…

まあ、こうしてブツブツ文句を書き連ねていても全く生産性がないので、そのうち検証実験でもしてみましょうかね。乞うご期待!

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

コメントを残す

*