コラム

「最先端の日本酒ペアリング」を読んで

chiba

いよいよ発売となった千葉麻里絵|宇都宮仁共著の「最先端の日本酒ペアリング」。さっそく手元に届きましたのでレビューしてみようと思います。

 

千葉麻里絵氏のリアル

日本酒ペアリングをテーマにしたサイトを運営している以上、どうしても避けては通れない本が出版されました。これまでも日本酒ペアリングに関する本は数冊でていますが、ここまで専門的なものは恐らく日本初じゃないでしょうか。

一気に読み終えて、まず第一に感じたのは「この本には千葉麻里絵のリアルが凝縮されている」ということ。なんというか、嘘くさくないんですよ。本を書くために急場で考えたのではなく、彼女が毎日やってきたこと、ずっと考えてきたことが反映されているので、深いし説得力がある。

紹介されている実例もふわっとした感覚に基づいているのではなく、しっかりと理屈と必然性が存在しているのは純粋にすごいなと思います。正直、自分はまだまだ勉強不足であることを痛感させられました。

アプローチの違い

ある意味同業者なので、当然自分のやり方と比べてみるわけですが、根本的に異なっている点がいくつか。

まずは代々木上原のレストランsioの鳥羽氏のコメントから。

千葉さんは素材と合わせてこうなったらいいというゴールから逆算して日本酒を選んでいる。足りなければ料理かスパイスや香りを加える、五味を足す。

本書P.154より

そう、これなんですよ。自分はまず料理ありきで、なるべくそこに手は加えず、どんな日本酒が合うかという視点でペアリングを考えます。しかし、彼女は最初からトータルイメージがあって、そこに至るためには料理に手を加えることも、酒に手を加えることも厭わない。

ペアリング理論の5つ目に紹介している「余白を埋める」なんてのは、この考え方を如実に表しています。料理のソースを抜くなどして、あらかじめ日本酒の入る余白を作っておくなんていう発想はなかなかできるもんじゃありません。実に面白い。

同調とギャップ

それから、同調とギャップについても、私とはちょっと違う。

自分の場合、基本は「同調」にあって、そこをゴールとしてペアリングを考えていく手法をとっています。ギャップの要素(例えば揚げ物に酸味を足すなど)はあくまでアクセントとして考えるのが自分のセオリー。

だから、フレーバーの分析と五味の数値化が非常に重要になってくるわけですが、千葉さんはそういったことはしていないようです。

もちろん「同調」は当然のように意識しているところなんでしょうけど、そこからもう一歩踏み出して異質なもの同士を組み合わせて新たなものを生み出す「ギャップ」または「マリアージュ」を軸に据えて理論を展開しているように思えます。

私もよく書いてますけどギャップを生かしたマリアージュっていうのは本当に難しいんです。こればっかりは理屈だけじゃなく、どれだけ試したかという経験がものを言うんですよね。もちろん、その経験をまとめあげる味覚センスも重要ですが。

恐らくは本書で紹介している実例はほんの一部で、かなりの引き出しを持っていると見受けられます。それって本当にすごい財産ですよね。

誌上ペアリングレッスン「鰹に日本酒を合わせたら?」

P.136からの「鰹に日本酒を合わせたら?」のパートが大変興味深く、勉強になったんですが、彼女は常日頃からこんなことをやっているんでしょうか。だとしたら、そりゃあ引き出しも増えるってもんですよ。

ここでは、まず何もつけずに鰹を一口、そこに様々な日本酒を合わせて相性を探ります。さらには調味料やハーブを触媒に使って、そのままでは合わなかった日本酒と鰹が互いに高めあうようになる過程を記事にしています。

自分でもペアリングを探るときは、いろいろ手を変え品を変えつつ様々な組み合わせを試しますが、基本は完成された料理を軸にしています。このレッスンのようにシンプルな素材に対してハーブや調味料を加えて変化させていくやり方は、そのものズバリの組み合わせを考えるというより、基礎研究として勉強になるだろうなと思います。自分もちょっとやってみよう。

日本酒ペアリングの課題

やはり洋食を含めた幅広い食に日本酒を合わせていくことが今後なすべきことだと思うのです。その意味で、本書は大いなる前進だし、彼女の考え方そのものは日本酒という枠を超えてフードペアリング全体に影響を及ぼすものだと感じます。

一方で、課題も見えてきました。これは決して批判ではないですが、本書でチョイスしている日本酒は比較的キワモノというか、特徴の強い変化球的な銘柄が多いんですね。

洋食系の日本酒ペアリングを提供している店は概してその傾向にあって、要は合わせるべき料理がダイナミックで強いものの場合、どうしてもそれに見合ったパワーのある酒を選ばざるを得ない。ただ、それは日本酒のメインストリームではないこともまた事実。

メインストリームってなんじゃい、という話ですが、私の考える日本酒らしい日本酒ってやっぱり繊細さがキモで、酒ごとの微細な差が面白いんですよね(淡麗辛口が好きとかそういうことではないので、念のため)。

洋食をはじめとしたダイナミックな料理が相手だと、どうしても日本酒らしい繊細さが失われてしまう。ここにジレンマを感じてしまうんです。例えば新潟の典型的な淡麗な酒なんかはこういった場面では出番がない。結局、白身の刺身にでも合わせとけば?と従来の枠にはめられて終わってしまう。そんなのつまらないじゃないですか。

日本酒でもモノを選べば合わせられるけど、別に日本酒じゃなくてもいい?それじゃあ、ペアリングする意味がない。どうせなら、この日本酒以外ありえない!という組み合わせを提案してこそ、だと思うんですよね。

その想いや考え方は千葉さんも同じだと思います。本書の表紙にも「ワインのようにではなく、日本酒だからこそできるフードペアリングがある。」と書いてありますが、まさしくそれなんですよ。

その意味で、自分はまだまだペアリング文化の先行者であるワインのことを知らなすぎる。あえてワインを学ぶことで日本酒ペアリングの新たな打開策が見えてくるような気もしています。

最後に

なんだかんだ書いてきましたが、結論。本書は本当に素晴らしい内容。

あえて要望を言わせてもらうなら、もうちょっと科学的な実例があったらより理論的になったかなと。最初のほうで「焼いた肉の香りは、大吟醸に多いカプロン酸と同質でバランスがとれる」と言った感じの記述がいくつかあったんですが、そういうのもっと知りたかったなあ。

でも、ヒントをたくさんもらいましたし、自分ももうちょっとギャップやハーブの使い方に習熟したいなと思った次第です。

ではまた!

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