日本酒ペアリング講座

日本酒ペアリングのコツ[4]~味覚編2(五味の特徴、脂、テクスチャー)

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長かった日本酒ペアリング講座もいよいよ最終回。

ここからは各味覚ごとの特徴と考え方を記します。特に重視すべきは酸味であり、ここだけ別立ての項目にしてもいいくらい。

それでは参りましょう。

味覚ごとの特徴

酸味

五味に細分化するペアリングメソッドで、最も重要となる味覚がこの「酸」です。

「冷旨酸」と「温旨酸」

酸味は大きく二系統に分けることができます。一つは「冷旨酸系」、もう一つは「温旨酸系」。

「冷旨酸系」とはクエン酸、リンゴ酸、酢酸などの冷やすと美味しく感じる酸温旨酸系」とは乳酸、コハク酸、グルコン酸などの温めて美味しく感じる酸のことを言います。

フルーツなんかは冷旨酸系ですし、最近流行りのすっきりフルーティ系の日本酒もリンゴ酸やクエン酸を多く含んでいるので同じく冷旨酸系です。

一方で牛肉や貝類などは温旨酸であるコハク酸や乳酸の含有率が高くなり、日本酒でいえば燗上がり系で旨味の強い骨太純米酒や熟成酒などがそれにあたります。

もうお分かりですね。この酸の系統を合わせることが「同調」においてはかなり重要なのです。

酸の系統を合わせる

さっぱりフルーティ系の酒とアミノ酸を多く含む食材だとか、どっしりした純米酒とさっぱりしたサラダなんかは、味のボリュームとバランスが整っていたとしても、やはり同調しにくいのはお分かりいただけるかと思います。

なお、冷旨酸系と温旨酸系、いずれの成分も併せ持つ酒も多く存在します。それは「中間系」と呼んでいますが、この場合はどちらにでも合わせやすいとも言えますし、逆にどちらとも合わない要素を含んでいるとも言えます。難しいところですが、香りや他の味覚との兼ね合いで考えていくしかないでしょうね。

ギャップを狙う場合

ギャップを狙う場合は必ずしも酸の系統を合わせる必要はありません

例えば温旨酸系である肉に冷旨酸系のレモンをかけるのは全然問題ないですよね。他にも温旨酸系の白身魚の塩焼きと冷旨酸系の大吟醸はそのままだといまいちマッチしませんが、例えばハーブで香りを整えることでつながりが生まれて酸以外の部分で同調させることが可能になります。

この場合は酸だけに着目すると、やはり同調しにくいので、むしろ温旨酸と冷旨酸を別の味覚として扱った方がかえってわかりやすいのかもしれません。

甘味

よく和菓子と日本酒のマリアージュ♡とか言って紹介してる例がありますが、私個人としてはなかなか難しいと思っています。

というのも、和洋問わずスイーツの後に日本酒を飲むと日本酒の持っている甘味が弱く感じられるからです。料理の甘みは程度によりけりですが、スイーツは突出して甘いわけで、ほとんどの酒ではピーク値がスイーツに見合わないのです。それをわかったうえで、あえて日本酒の甘味を殺し酸を生かして口中をすっきりさせる効果を狙うならいいと思いますが、そうではない場合、やはり日本酒が味気なく感じます。

日本酒は基本的に甘みを楽しむ酒です。甘味こそが日本酒を日本酒たらしめていると言ってもいいでしょう。ですから、そのアイデンティティでもある甘味を殺してしまうとすれば、やはりバッドな取り合わせと言わざるを得ません。

逆に言うと、貴醸酒など極甘口のお酒と比較的甘さ控えめのスイーツであれば甘さのバランスが取れるのでOKということも言えます。実際、洋菓子であっても甘口日本酒と合わせられるものは存在します。

甘みのレベルに関しては酒よりフードのほうがやや低いくらいでペアリングさせるのがポイントになります。日本酒の甘みを殺さず、同調効果を狙うことができます。

もうひとつ、真逆のアプローチですが、日本酒の中でも比較的甘味がドライな燗上がり系骨太純米酒ならばもともと甘味は期待していないこともありますし、その他の味覚の要素が強いので、甘みの強めな食べ物とも比較的合わせやすくなります。

旨味

日本人が発見した味覚である旨み。昆布、チーズ、トマトなどに多く含まれるグルタミン酸、かつお節や肉類に多く含まれるイノシン酸、シイタケに代表されるグアニル酸、貝類に含まれるコハク酸などがあります。

※コハク酸は旨味の一種ですが、酸味や苦味も含むためここでは温旨酸系の酸味の一つとしても扱っています。多量に含まれるとエグ味の原因になります。

日本酒に含まれる旨味はグルタミン酸をはじめとするアミノ酸系の様々な成分が影響しており、「アミノ酸度」が旨味の強さのひとつの指標となります。

旨味成分を合わせることで相乗効果が発現し、より強い旨みを感じることができるのは皆さんご存知ですね。グルタミン酸とイノシン酸の掛け合わせはその代表的なものですが、ここからも日本酒は魚または肉との相性が良いことがわかるでしょう。

なお、ボリュームの観点からすると、実のところ旨味に関してだけは多少他の味覚より突出していても問題ありません。ただし、限度はあります。好みもありますが旨みだけが強すぎるとやはりバランスは崩れてきます。

苦味

日本酒にとっては原則好ましくない味で、雑味にも関与します。本能的にヒトは苦味を毒物と直結して認識するため閾値が低く、ごく少量であっても忌避する対象となります。

このため苦味自体を生かすよりは、相互作用によっていかに抑えるかを考えることが多くなります。

先味後味の考え方で言うと後味に属するので、先に食べる料理に含まれる場合は酒の甘みで緩和することができますが、酒が苦い場合はそのまま後味として残ってしまうため注意が必要です。

ただし、本当に極少量であれば深みや奥行きがでて、それが全体のコクにも繋がるため、そこまで毛嫌いするものではありません。

また、苦味を共通項として酒とフードをリンクさせるのも手法としてはアリです。

塩味

主に塩化ナトリウムによってもたらされる味覚です。味の輪郭に大きく作用しますが、日本酒には含まれない味覚であるため、同調はあり得ません。このため、塩味に関する効果はすべて別の味覚との相互作用を狙ったギャップの考え方になります。

塩味の相互作用は上で述べた通り、主に甘みや旨みを引き出す対比効果や、酸味や苦味を抑える抑制効果があります。

脂について

他の味覚とは性格が異なることもあり、話をシンプルにするためここまであえて言及を避けてきましたが、特に洋食とのペアリングを考える上ではどうしても避けて通れません。

脂は第6の味覚?

ヒトは脂に対する味覚受容体を持っていないため、それ自体に味はないとされていますが、近年は脂も味覚の一つであるとする研究もあります。まあ、味があるかないかはともかく、脂が加わることで料理の味に様々な変化をもたらすことは間違いありません。

基本的な効果としては刺激を弱めてマイルドにする、味覚の持続性を上げる、全体のコクを強くする、などなど。この脂をどう処理するかでペアリングの方向性が変わってきます。

つまり、洗い流す「ウォッシュ」なのか、脂の旨味を生かす「同調」なのか。

※参考までに、オリーブオイルとの相性について、以下記事では「ウォッシュ」の観点から実践報告をしています。

ワインの場合は酸やタンニンの渋みで脂をウォッシュするのが基本で、日本酒でもその理屈は通用します。上記記事も完全にそのセオリーにのっとってますが、実はやり方次第で洗い流さず、うまく同調させることもできます。

甘味と脂の相性

具体的には「甘味」を生かすのです。脂を含む肉と砂糖の相性の良さは、すき焼きやかつ丼、豚角煮をイメージしてもらうとわかりやすいのではないでしょうか。

甘味はワインには比較的少ない味覚なので、ここは日本酒ならではの強みと言えます。本来、酸が弱くウォッシュしにくい日本酒は脂とのペアリングを苦手とされてきましたが、逆にその短所を生かす方向性も考えられるのです。

ここを使いこなせるようになれば、日本酒は和食にしか合わないというステレオタイプな考えから抜け出すことができるでしょう。

食感、テクスチャーを合わせる

香りや味覚も重要ですが、忘れられがちなのがこの食感とテクスチャー。テクスチャーとは食感を含む口当たり、舌触りや質感といった意味合いになります。

簡単に言ってしまえば、柔らかくまろやかな食材には同様に柔らかい質感の酒を、パリッとした揚げ物には硬質なイメージのある酒を合わせるのです。

柔らかいってのは何となくわかるけど、硬い酒って??とお思いの方もいるでしょう。液体が固かったら氷になっちゃうじゃないか!…ってそういうことではないんです。

飲んだことのない人に伝えるのは難しいんですが、酸やミネラル感の強い酒でシャキっとした味わいのタイプは硬質と言えます。銘柄にもよりますが、新酒だったり、火入れしてあって精米歩合が高めで若い酒は比較的そういう傾向にあるかも。

また、発泡系の活性濁りなんかは揚げ物とよく合います。パリパリした食感と酒のシュワシュワした刺激の相性がいいんですね。にごりと言えば、どろっとした質感がレバーペーストなんかと合わせやすかったりもします。

なんとなくイメージできましたか?

以下ではテクスチャーに着目したペアリングを実践していますので参考にしてください。

まとめ

ここまでざっとペアリングの手法を理論的に説明してきました。だいぶ整理したつもりですが、それでもまだ複雑ですよね。

この他にも温度や臭みのマスキング、視覚、情緒的な要素など細かく見ていけばいくらでも理論展開できますが、まずは基礎的なところを抑えるのが重要ですから、このくらいにしておきましょう。

理論はわかったけど、肝心の日本酒はどうやって選んだらいいかわからない!とお思いの方もいらっしゃるでしょう。そこはまた別の機会に記事にしますのでお待ちください。

しかし、これだけ書いておいてアレですが、実際にペアリングしてみるとこの理論どおりにいかないことも多々あると思います。

特にギャップの部分なんかは深すぎる世界です。まあ、結局最後はあなたの感覚とセンスがモノを言うんですよね。「理論なくして実践なく、実践なくして理論なし」です。ここでの理論は頭の片隅にでも置いて、あとはとにかくたくさんの料理と酒の組み合わせを実際に味わってみることが大切です。