日本酒ペアリング講座

日本酒ペアリングのコツ[3]~味覚編1(五味の分析とボリューム)

roast beef

日本酒ペアリング講座の第三回は味覚の分析とボリュームについて。

味覚についてはいわゆる基本五味「塩味」「酸味」「旨味」「苦味」「甘味」のそれぞれに細分化して分析をしていきます。

料理と酒を各味覚ごとに細分化した後、それぞれの強さ(ボリューム)とバランスを見ます。ここは非常に重要で、このバランス次第でペアリングが成立するかどうかがほぼ決まります。

味覚のボリューム解析

味覚の分析においてもっとも重要となるのが、このボリュームの解析です。ボリュームとは味の濃さ、強さとも言い換えられます。

ペアリングを紹介する本やウェブサイトなどでは「味の濃さを合わせる=濃い味の料理にはしっかりした濃いお酒、薄味の料理には爽やかで軽やかなお酒を」などと書かれていることが多く見られます。まさにその通りで決して間違いではないのですが、これだとちょっとざっくりしすぎなんですよね。

この法則に従っていざ実践してみるとその料理や酒がどの程度の濃さなのか判断するのが案外難しいのです。極端に濃い/薄いならまだいいんです。ドミグラスソースで煮込んだ牛シチューなんか誰がどう考えても濃いですよ。

じゃあ、鶏もも肉のローストとバルサミコソースだったらどうですか?肉自体は中程度の濃さかな?でも若干あっさりしてると言われればそんな気もするし、ソースがかかると酸味でやや軽やかにも感じるし、最初中程度と思ってたけど咀嚼してたら意外に濃くなってきたかも…と様々な要素が判断を惑わせるのです。

日本酒も同じで、何をもって濃い/薄いとするかは難しく、全体のバランスも関わってきますので、なんとなくの感覚でジャッジするしかないんですよね。

そこで、このサイトでは料理や酒を、一度「塩」「甘」「酸」「旨」「苦」の基本五味に分解して、それぞれの味の強さを見ていきます。

レーダーチャートを作ってみる

まずは白身魚の刺身(醤油少量添加)あたりを例にとって5段階のレーダーチャートにしてみましょう。こうして視覚化することで、ペアリングの方向性が明確になります。

なお、ここでの数値はそれこそ感覚値で構いません。

白身魚の刺身のチャート

地味でつまんないグラフですねえ。数値としては塩 2.5、甘 0、酸 0.5、旨 2、苦 0といったところでしょうか。やはり淡泊な味わいなので数値化するとどの味も弱いですね。

菊姫のチャート

では次に、話をわかりやすくするため、あえて刺身には合いそうもない日本酒を選んで同じようにレーダー分析しましょう。というわけで甘酸っぱくて濃醇な純米酒の代表的存在である「菊姫 山廃純米 無濾過生原酒」をチョイス。

数値は塩0、甘 4、酸 4.5、旨 4.5、苦 1.5としました。

※日本酒に塩味はありませんが、料理とそろえるためにあえてそのまま載せています。

この2つのレーダーを比べて見るのですが、ポイントは二つあります。一つは五味のなかで突出した味があるかどうか、もう一つは各味間のバランスです。

突出した味があるとバランスが崩れる

ここでようやくボリュームの話が出てきます。料理全体のボリュームを測ろうとしてもあいまいなため、細分化してから測ってみるという話でしたよね。

料理と酒のボリュームを比べて、最高値(ピーク値)が揃っていないとバランスが崩れて同調しなくなります。どちらかに突出した味があるとそれが全体を支配してしまうんですな。

先ほどの例でいうと、刺身(+醤油)のピーク値は塩味の2.5であるのに対して酒のほうでは甘味、酸味、旨味がすべて刺身のピーク値を大きく超えてしまっています。これにより、刺身の味は菊姫の強さに負けてしまい、ほとんど消えてしまいます。

ではどうするか。ピーク値が刺身(+醤油)と同じく2.5程度の酒を選べばいいのです。そうですね、石鎚の純米吟醸なんかが無難かも。

塩 0、甘 1.5、酸 2.5、旨 2、苦味0.2くらいかな。刺身と合わせてみましょう。

ほら、見るからにバランス良いじゃないですか。

なお、これを見ると料理の甘味が0、酒の甘味が1.5のように同じ味覚同士の数値は揃っていないですが、これは大丈夫。逆にギャップ効果を狙えます。繰り返しますが重要なのはいずれかの味覚が全体から突出しないことです。

各味のバランスを見る

ピーク値を合わせたら今度は五味のバランスを見ます。

料理に「同調」させるためにはなるべく似通った味わいの酒を選ぶ必要があります。

旨味が強い料理には同じく旨味が強い酒を、酸が特徴的な料理には酸のある酒をといった具合に。

一方「ギャップ」の考え方は同調とは基本的に異なり、足りない味を補完することでバランスをとる方向になります。

例えば、旨味の強いローストビーフに同程度のピーク値の旨味と酸味を持った酒を合わせるとか。例えばそうですね、「秋鹿 山廃純米」なんかちょうどピッタリじゃないでしょうか。

※ローストビーフの甘味と酸味はソースから

しかし、ここで一つ注意すべきことがあります。もし、甘味も酸味も旨味も苦味も塩味も全部がてんこ盛りだとどうなると思いますか?

なんとなく想像がつくと思いますが、これをやっちゃうと口の中がごちゃごちゃとうるさくなって却っておいしくなくなるのです。

実際のところ、人が美味しいと感じるのは2種類から3種類程度の味のピークを持っている場合だそうです。この例だとピークになっているのは酸、旨の2つなのでセーフ。この料理の塩気を強くして、さらに甘味が強い酒を合わせたりすると、ちょっと賑やかになりすぎますね。

五味のバランスを見る際はこの点にも注意しながら考えていきましょう。

まとめ

かなり実践的になってきましたね。

とにかく大事なのは各味のボリューム(濃さ)を合わせることです。正直、そこさえクリアできれば、かなりの確率で同調しますので。

さて、次回はいよいよ最終回。味覚ごとの特徴や脂についての考え方、そしてテクスチャーについても少しお話します。