アヒージョ、最近よく聞きますね。無駄におしゃれでムカつく料理の代表格ですが、これが日本酒とよく合うんです。
アヒージョの可能性
さて、アヒージョです。あんな油まみれの食い物が日本酒に合うとは到底思えないですよね。
それがですね、やり方次第ではびっくりするくらい素晴らしいペアリングができるんです。
そもそもアヒージョとはどういう料理なのか。検索してここにたどり着いた人ならほとんどご存知でしょうけど一応簡単に説明します。
アヒージョとは何ぞや
アヒージョはスペイン料理ですが、 最近は日本でもすっかりメジャーになってきています。
スペイン語で「ニンニク風味のオイル」という意味なんですって。wikipediaには「刻んだニンニク」とありますね。どっちが正解なんだろうか。まあどっちでもいいですが、本来は料理そのものを指し示す言葉ではないようです。ちなみにスペイン語でにんにくのことを「アホ(ajo)」と言います。
語源はともかく、調理としては至極簡単で、ニンニクを入れたたっぷりのオリーブオイルを熱して、そこにいろんな食材をぶち込んで煮込むというだけ。揚げるんじゃなくて煮込みです。
エビや貝など海鮮を使うことが多いですが、鶏肉やレバー、砂肝なんかでも美味しくできます。
味付けはシンプルに塩コショウのみの場合もあれば、アンチョビで風味付けをすることもあるようです。居酒屋などでは隠し味に醤油や味噌を使って日本酒に寄せる工夫をしているところもあるみたいですね。
アヒージョの分析
それではペアリングの下準備として今回も分析を行っていきます。今回、煮込む食材は砂肝です。砂肝は軽く下味をつけてあります。
香りの分析
香りは当然ニンニクが最も前に出てきます。あとはパセリやタイムなどハーブを加えた場合、それらも考慮しましょう。そして、ニンニクの陰に隠れがちですが、オリーブオイルの持つフルーティな風味も忘れちゃいけません。
五味の分析
五味のチャートとしてはこんな感じでしょうか。
塩3、旨4、苦0.2としました。チャート上は塩味と旨味でほぼすべてですが、最もポイントになるのはここに表現されていない「油」です。
アヒージョなんてほぼオリーブオイル飲んでるようなもんですからね。
さあ、ここからはいよいよペアリングさせるべき日本酒を考えます。
合わせるべき日本酒の見当をつける
味覚チャートから検討
今回のチャートを見てお気づきの方もいるかもしれません。この塩味と旨味だけの構成って、実は過去にやった炙りベーコンとほとんど同じなんですよね。
というわけで、候補になる日本酒もこの時点では炙りベーコンとほぼ同じになります。
しかし、今回最も考慮すべきは五味ではなく「油」です。ここをどう処理するかが一番の課題。
油の処理方法には洗い流してすっきりさせる「ウォッシュ」と、油の旨味を増幅させる「同調」の二種類があります。どちらでも行けそうな気がしますが、甘味や旨味と同調させるにはやはり油が強すぎますね。五味チャートになぞらえて油を数値化するなら、5ないしは6くらいになるでしょうか。
要するに、それなりに濃醇でボディが太い酒じゃないと負けてしまうということです。しかし、よしんばボリュームがマッチングした場合でも、重くてすぐに食べ疲れしてしまうことが予想されます。
一方のウォッシュではどうでしょう。これもピーク値を合わせる考え方は一緒ですが、酸やアルコールは口内がすっきりするため、甘味や旨味が強い酒と合わせる場合とは印象がかなり変わります。
そんなわけで、今回はまず酸が効いたお酒を第一候補とします。
旨味に関しては、あってもなくても。甘味については、あまり強いと甘、酸、旨、塩の四味がピークを叩くことになり、いささか賑やかすぎるので、酸の強い酒を選ぶなら甘味控えめなほうがいいかもしれません。
香りの共通点・近接点を探る
ワインのアロマホイールを参照すると、ニンニクもオリーブオイルも中分類では野菜・草。大分類では植物系になります(ここにはハーブも含まれます)。
ここが炙りベーコンとは大きく違うところ。ベーコンはロースト臭にフォーカスしたので熟成酒が候補として挙がりましたが、今回は多少であれば案外フローラル・フルーティ系の香りを持つ酒でも植物系と近接しているのでいけると判断します。
日本酒の見当をつける
この時点で候補は二種類あります。
ひとつはあまり甘くなくて酸が効いており、香りがそれほどない酒。もしくは
ややフローラル・フルーティ系の香りを持つ酒。この手は結構ありますね。いわゆる「爽酒」ってやつです。
もう一つは、アルコール感が強くて、酸もしっかりしているどっしりした燗上がりする酒。これもウォッシュ効果が期待できる上、うまいこと旨味と油が同調すればなかなか良さそうですね。
ただ、燗酒は前回選んでいるので、今回は意外性にも期待して前者をチョイスしてみようと思います。
阿櫻 特別純米 無濾過生原酒 初しぼり
そんなわけで今回選んだのはこちら。
秋田県横手市の蔵のお酒。ここは可愛らしいラベルの「りんごちゃん」が有名ですね。阿櫻という銘柄としては全体的に酸が効いていてすっきりしているイメージがあります。
とりあえずはスペックを確認。
- 使用米:ふくひびき
- 使用酵母:901号
- 精米歩合:60%
- 日本酒度:+4.0
- 酸度:2.4
なるほど、予想通り酸度がなかなか高いですね。早速テイスティングしてみましょう。
立ち香は柑橘系+弱めのカプロン。含み香は立ち香よりもややフルーティー。甘みがドライで軽く、やはり酸が強いのでかなりスッキリしてます。酸の系統としては冷旨酸系のリンゴ酸が多い印象。これはもう完全に冷酒推奨ですな。
アヒージョと合わせるとどうなるか、あくまで事前予想ですが、旨味、酸味、塩味のトライアングルを形成してくれると期待してます。
実食!
ようやく実食。
まずはアヒージョの砂肝とたっぷりのオリーブオイルをスプーンに乗せて、ふーふーしながら口に運びます。
当たり前ですが、やっぱりニンニクの香りがすっごいですね。砂肝を咀嚼すると旨みがじわっと広がります。そして、まったりと口内全体に広がるオリーブオイル。この曲者を阿櫻ちゃんがどう捌くのか。
酒を含んでみます。あー、これはいいわ。予想通り甘みがドライですぐに爽やかで強い酸が現れるので、もったりした口の中がさっぱりします。
しかし、この油はまだ負けない。一旦酸によってリセットされたと思った舌の上に在りし日の砂肝の旨みとニンニク風味がカムバック!そのころ阿櫻ちゃんはといえば、ちょうど旨みを発現する段階でありまして、ここで二者は完全に同調するわけです。で、最後はごく軽いほろ苦さを感じながらフィニッシュ。
まとめ
今回も見事に予想的中でナイスなペアリングを実践できました。
アヒージョなんていう南蛮の油煮込みと、我らが清く正しい日本酒が合うわけねえ!なんていう石頭な考えは払拭できましたでしょうか。
正直、今回は自分でも厳しいかなと思っていたんですが、意外なほど合いましたね。「油には酸によるウォッシュ」というのがセオリーではありますが、ここでポイントになるのは、やはり油と酸のピーク値を合わせることです。
酸が強すぎても弱すぎても、望んだ結果は得られないと思われます。
今回はやりませんでしたが、機会を見てドライ系で酸が強い燗酒も試したいですね。
※この後、オイルサーディンの簡易アヒージョおよびワタリガニのアヒージョでもペアリングを探ってるので参考にしてください。