フルーティな日本酒が人気だけど、食事と合わせにくいんだよなあ、とお悩みのあなた!コツさえ分かれば簡単にペアリングできますよ。さらに具体的なおススメ日本酒も10本ご紹介。
フルーティな日本酒の立ち位置
日本酒は米からできているのに、なぜこんなにもフルーティな香りがするのか。最初に香り系の日本酒を飲んだ時はすごく驚いたのを覚えています。
日本酒初心者の方や女性にとって、この手のタイプは非常にとっつきやすいので人気が高いですね。
フルーティ系日本酒の完成度について
ひとつ注意しなければいけない点が。
はっきり言って、フルーティな日本酒ってのは出来の悪い酒に当たる率もまれにあります。蔵元が流行に乗じて作ったものの技術が追いつかず、とりあえず香り系の酵母使って甘くすればなんとかなると思っている…かどうかは知りませんが、そう勘ぐってしまうような酒も悲しいかな、一定数あるんですね。
では逆に「出来が良い」とはどういうことなのか。
まあ、自分が飲んで美味いと思えればそれが全てなんですが、一般的に出来が悪いとされるのは、酸とミネラルが少なすぎてのっぺりした立体感のない、ただ甘い酒。さらに、変に甘みと旨みが主張しすぎてデブった酒になっちゃってるのもダメだと感じます。
やはり、昨今のトレンドからもポイントは「ジューシーな酸」と「骨格」そして「スリムな旨み」ということになるでしょうか。
フルーティ系日本酒おすすめ10選
ちょっと話がずれましたが、そのへんのポイントを踏まえてチョイスしたレベルの高い10本をご紹介。
澤屋まつもと 守破離 no title
新政なんかと比べるとメディア露出は少ないですが、間違いなく今の日本酒界のトップランナーです。杜氏の松本日出彦氏は「醸し人 九平次」の萬乗醸造で3年間修業しています。言われてみれば、九平次とニュアンスはかなり似ていますよね。
「no title」は守破離シリーズの限定品。スペック非公開ながら、お値段は720mlで2500円と他と比べればなかなかの価格。ただ、このレベルの味の酒ならむしろこのくらいの金額は出して当然。ワインの値段考えたら全然安いですよ。
香りはそこまで強くありません。むしろほんのり香る程度。甘みも旨みも軽くて上品ながら、しっかりしたパンチがあります。これは酸のバランスなのかな。そして、信じられないスピードで口の中からキレていきます。
生と火入れがありますが、火入れのほうがむしろガスがあってフレッシュ感が強いイメージ。生のほうが若干重たい。フルーティさを味わいたいなら生、全体の完成度なら火入れかな。 とにかく、別次元の味を教えてくれます。
※2020年末に日出彦氏が松本酒造を退社するという衝撃のニュースが。つまり、この酒はもう永久に飲めない…。他の蔵で同等かそれ以上の酒を造ってくれることを願っています。
千代緑 純米大吟醸 no.12
秋田の小さな酒蔵(年間1400石程度)で、フルーティ系には定評があります。杜氏は1937年生まれでかなりのご高齢のようですが、これだけモダンな酒を造れるというのはすごいですね。
今回ご紹介するのは秋田県醸造試験場によって分離された新しい酵母である「12号酵母」を使用した若干実験的なお酒。
いかにも大吟醸らしいバナナ系のフルーティな香りがふわりと。微発泡とともに品のいい甘みを感じます。そのまま程よい旨みに移行し、ごくわずかな苦味を伴ってキレ。
非常に優等生的な、わかりやすくうまい大吟醸。実はこの酒、開栓直後より数日置いたほうが味わいが全体的に濃くなりバランスが良くなるんです。早飲み推奨のお酒だとなかなか店に置きづらいですが、これはその点でもおすすめ。4,5日経っても発泡感が残ってます。
なお、この蔵のお酒は傾向と品質に比較的ブレがありません。MS3とかSPとかR-5ってのもあるんですが、no.12と同じくらいオススメしておきます。
播州一献 純米大吟醸 北錦
2018年に、火事にあって大打撃を受けた山陽盃酒造さん。苦境に負けずにがんばっていただきたい。
ちなみにこちらの蔵、閉山した鉱山の坑道内に貯蔵庫を持っているそうです。そっちは無事だったと思いますが、ここで8年ほど眠っている熟成大吟醸「明壽蔵」は是非とも飲んでみたいです。
さて、今回紹介のこちらは兵庫産の酒米、北錦を使用。無濾過生で磨きは50%。含むとしなやかな甘みと強めの酸がスムーズに入ってきます。旨みもしっかりあり満足感は高い。アルコール感や苦みはなくきれいにひけていきますね。
大吟醸にしては濃醇で、とても人懐っこいお酒です。値段も非常にリーズナブル!
亀甲花菱 純米吟醸無濾過生原酒 山田錦
埼玉の小さな蔵で、甘旨系のお酒がお得意。同じ埼玉の花陽浴(はなあび)と傾向は似てます。
使用米はさけ武蔵、山田錦、美山錦、雄町などバリエーションがありますが、もっともバランスがいいのは、この山田錦になるのかな。
テクスチャーはトロリとして、濃い目の芳醇なボディ。香りはフルーティで華やかながら強すぎず、奥深いニュアンスの酸を感じます。
鳴海 特別純米 直詰め生
千葉の芳醇フルーティ系といえば、鳴海は外せません。
カプロン系の華やかでフルーティな香りから、濃い目の甘みと酸味。いかにもというか典型的な甘酸フルーティ酒なので、正直面白味に欠けるところもあります。ただ、総合的にレベルが高いので、やっぱりなんだかんだ言って美味しい、というしょうもない感想になってしまう。
※2020年に「残草蓬莱」「水府自慢」「雄東」などを手掛けてきた知る人ぞ知る名杜氏・菊池譲氏が移籍してきました。今後、どう味が変化していくのか楽しみです。
仙介 特別純米 白麹
日本酒を仕込むときに使う麹は「黄麹」ってのが一般的なんですが、たまに「白麹」とか「黒麹」とかを使う変わり種も。白麹にはクエン酸が多くなるという特徴があります。
で、この仙介もご多分に漏れず素晴らしい酸の出方。
まずは含むと同時にガスがしゅわっと。軽いけどしっかりした甘みとジューシーな酸。旨みのエンベロープもキレイで広がり過ぎないところは高評価。
低アル(13度)の軽さの中にもしっかり凝縮感があって非常にいいですね。開栓から数日置くと液性にとろみが出てほんのり蜂蜜のようなコクも足されます。マスカットのような後味で美味すぎです。
東鶴 純米吟醸 白麹仕込み
もう一発、白麹いいですか。ここ数年で、どんどん酒質が上がっている佐賀の注目蔵です。
やはり白麹ということで仙介と似た部分もありますが、こちらのほうがより甘みが強めで芯がある感じ。立ち香は爽やかなカプロン系で乳酸のニュアンスも。とにかく超ジューシー。ていうかジュース。旨みもキレイで雑味もなくスイスイ飲めてしまう危険な酒です。
三千櫻 地酒SP 生酒
なんと驚くなかれ、普通酒です。こういう言い方はどうかと思いますが、要するにグレードが低くて安いんです。(普通酒について詳しくはググってください)
確かに一般的な普通酒ってのはイマイチなのが多いですよ。しかし、この子は明らかに違います。素晴らしくフルーティで芳醇。最初に飲んだ時は本当に驚きました。
開けたてはややアルコール添加特有の浮いた感じがありますが、二日目から激変します。一気に丸みが出て芳醇に。これはぜひ1日置いてから提供してほしいですねえ。
※当蔵は2020年に岐阜から北海道へ移転。この普通酒も変わらぬ味わいを守り続けるのか、それともさらにアップグレードされるのか。
望 bo: 純米大吟醸 雄町
2018年のおすすめランキングのほうでも紹介した「望」。この銘柄も近年注目度が高いです。
豊潤でフルーティーな立ち香。甘みは強めで、若干生酒っぽいアセトアルデヒドの含み香がありますが、状態によっては気にならない程度かと。
旨み自体は嫌なエキス感を感じさせないでふくらみを表現できています。香りも含めて、いかにも雄町といった風情で広がりがあります。ファットでありながらキレがいいので次の杯が進んでしまう怖い酒です。
蓬莱泉 熟成生酒 和 純米吟醸
実は豊潤系が多い愛知県。中でも「蓬莱泉」の知名度は高いほうじゃないでしょうか。
生のまま1年氷温熟成させて、非常にまろやかな口当たりに。香り自体はそこまで強くなく、甘みが濃厚でトロピカル系フルーツを想起させます。もちろん酸もしっかりありますが、柔らかいので完全に酒に同化してて目立って表に出てくる感じではありません。
しかし大吟醸クラスの精米歩合50%で、ここまで濃醇なお酒ができるんですね。
フルーティな日本酒と料理のペアリング
フルーティな香りが邪魔になる?
一般的にフルーティな日本酒は料理と合わせづらいと言われます。このため、酒単体で楽しむ食前酒や食後酒の方向に追いやられがちなんですよね。
問題はその香りの高さ。確かに魚介、特に赤身の刺身など生臭みが強いものほど相性は悪くなります。
フルーツもしくはフローラル(花)の香りが生臭さを助長するのです。
また、魚以外であっても、和食の場合はやはりフルーツの香りが料理の邪魔になるというのはどうしてもあります。
ペアリングのコツ
じゃあ、ペアリングできないじゃん…と思うのはまだ早い!フルーティ系でも簡単に合わせられるようになるコツをご紹介します。
白ワインだと思え
まず、基本的な考え方としては白ワインと同じと思っていただいて差し支えありません。
白ワインに生臭い刺身なんかは合いませんよね?
逆に、塩焼きにした白身魚にレモンをかけたものなんかは、和食であっても合いますよね?
また、めちゃめちゃ大雑把に言ってしまうと和食よりも洋食のほうが調和すると思いませんか?
フルーティ系日本酒も同じです。和食よりむしろ洋食なんです.
ただし、味の濃さは合わせる必要がありますので、コッテリ系は避けてあっさりした洋食を選べば間違いありません。
香りの近い食材を見極める
ここからは、少し理論的な話を。
冒頭でも書いた通り、一番のポイントになるのは「フルーティな香り」です。
ペアリング理論の基礎であるアロマホイールを見て、日本酒の香りと同じ系統の食材を探しましょう。
まあ、難しく考えることはないです。要は同じように香りのある植物だったら合わせやすいってことです。
生野菜はだいたい近接した香りがありますのでサラダ系はテッパンです。
それから香りの強い野菜を使った料理、例えば山菜の天ぷらとか、春菊のサラダとかも間違いないですよ。
そうそう、忘れちゃいけないのがアボカド。アレンジはいろいろありますが、青臭さが意外なほどフルーティ系の香りとマッチします。
ハーブを添加する
アロマホイールを見ていただいた方はすぐに気づくと思いますが、当然ハーブも近接した香りを持っています。ローズマリー、タイム、ディル、ローリエなどなど。
こういったハーブを使った洋食系の料理には香りがマッチして非常に合わせやすくなります。
単純に日本人にはなじみが薄いので、そもそもハーブの香りに拒否感を持つ人もいるとは思いますが、そしたら日本のハーブであるシソやミョウガなどを使ってみてはいかがでしょう。
フルーツを使う
香りがフルーティなんだったら、そのものズバリでフルーツに合わせれば一番手っ取り早いじゃん!とお思いのあなた、正解です。
ただし、フルーツをそのままってのは注意が必要。確かに香りは協調性があるんですが、モノによっては日本酒に比べて甘みが強すぎちゃうんです。そうなると、せっかくの日本酒の甘みがマスキングされてイマイチになります。(酸に関してはやや強くても大丈夫。むしろ日本酒が甘く感じられるようになります。)
オススメはフルーツを材料の一つとして取り入れること。
例えば酢豚にパイナップルなんてのは定番ですよね。
あとはサラダやマリネにグレープフルーツとか、センスが必要ですがイチゴを料理に少し入れてみるのも面白いかも。
ナシや柿など酸が穏やかな果物を白和えにしたり、マスカルポーネ、クリームチーズなどと和えるのも美味しいですよ。
もっとも簡単にペアリングできるのは柚子、レモン、すだちなどの柑橘類ですね。シンプルに果汁をかけたり、少し果皮を添加したりするだけで一気に相性度が上がります。
乳製品を使う
チーズやバターをはじめとする強い油脂を持った乳製品はフルーティな香りと相性が良いです。
フルーツケーキなどのスイーツをイメージすると分かりやすいかもしれません。もちろん、砂糖を大量に使用したスイーツ自体は日本酒と最悪の相性なんですが、生クリームだけにフォーカスするとそれほど悪くないのかなと。
乳製品とフルーティな酒が合う根拠
その科学的な根拠についてですが、ちょっと専門的な話をさせてください。
吟醸酒などに多く見られるカプロン酸エチル(いわゆるカプ香などと呼ぶこともある、リンゴやメロンに似た香りを持つ)という成分がありますが、その基質であるカプロン酸がバターやチーズにも多く含まれているんですね。
このことによってフルーティな香りとの親和性が高くなっていると考えられます。
参考まで、カプロン酸が多く含まれる食品TOP10を載せておきますね。全て乳製品ですが、逆にそれ以外でカプロン酸が含まれる食品はあまりありません。
食品成分ランキング|ヘキサン酸(カプロン酸) : 含有量Top 10
順位 | 食品名 | 成分量 100gあたりmg |
---|---|---|
1 | 油脂類/(バター類)/発酵バター | 1800 |
2 | 油脂類/(バター類)/有塩バター | 1700 |
2 | 油脂類/(バター類)/食塩不使用バター | 1700 |
4 | 乳類/(クリーム類)/クリーム/乳脂肪 | 930 |
5 | 乳類/(クリーム類)/ホイップクリーム/乳脂肪 | 840 |
6 | 乳類/(チーズ類)/ナチュラルチーズ/チェダー | 740 |
7 | 乳類/(チーズ類)/ナチュラルチーズ/クリーム | 700 |
8 | 乳類/(チーズ類)/ナチュラルチーズ/やぎ | 670 |
9 | 乳類/(チーズ類)/ナチュラルチーズ/エメンタール | 660 |
10 | 乳類/(チーズ類)/ナチュラルチーズ/ブルー | 630 |
出典:文部科学省食品成分データベースより
なお、ここに関して、アロマホイールはあまり役に立ちません。まあ、バターとチーズについては乳酸風味が日本酒と同調しますが、フルーティさとの相性とはまた別の話になってしまうので、ここでは深く言及しません。
まとめ
というわけで、フルーティな日本酒とそのペアリングについて書いてみました。
一般的には合わないと思われていますが、工夫次第でいくらでもペアリングできますので、ぜひいろいろチャレンジしてみてください。
ではまた!