日本酒の4タイプ分類はご存知でしょうか。特に初心者のうちは多種多様な日本酒の特徴をつかむために、またそれに合う料理の傾向を探る場合にも非常に有用です。
しかし、ペアリングを追及していく上では少なからず短所もあります。
ベストなペアリングを探す際には分類をどう生かしていくべきなのか、考えていきます。
様々な切り口
日本酒の分類と言っても本当に様々な切り口があります。造りを軸にしたもの、精米歩合を軸にしたもの、生産県を軸にしたもの、味わいを軸にしたもの、などなどなど。
そんな中でも最も有名なのは日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)が提唱している「日本酒の香味特性別4タイプ分類」だと思います。
というわけで、まずはこちらからご紹介。
日本酒の香味特性別4タイプ分類
多くの初心者向けサイトや日本酒本などで引用されているので、多少なりとも日本酒に心得のある方なら見たことがあると思います。
香りの強弱と味わいの濃淡に応じて、ざっくり4タイプに分類しています。それぞれの特徴を覚えておけば、その酒をいずれかに当てはめれば大まかな傾向がつかみやすくなり、合わせる料理も考えやすくなります。
実際よくできてるんですよね。どこにも当てはまらない酒もありますが、なんにでも例外はあるわけで。日本酒をこれから覚えていこうという人にとってはベストな分類法だと思います。
「日本酒完全ガイド」味わいのタイプチャート
4タイプ分類から一歩進んだ分類法が君嶋屋店主である君嶋哲至氏監修「日本酒完全ガイド」で紹介されているチャートです。
基本的なところはSSIの4タイプ分類と変わりませんが、熟酒が「華やか×濃醇」に置き換えられています。 SSIの分類では香り高く濃醇な味わいの酒の行き場がなかったので、 より精度が増していると感じます。
また、タイプごとに名前を付けてきっちり分類するというよりは段階的な傾向を示すチャートとして機能しているので、その意味でも曖昧な立場の酒の居場所が確保されています。
モダン&クラシック
こちらはちょっと異なる切り口の「モダン&クラシック」分類。
カネセ商店さんが提唱する分類方法で、昔ながらの質実剛健な日本酒と、十四代以降のスマートで芳醇なタイプの酒で大別し、味のボリュームを軸にさらに細分化したものになります。
詳しくはこちらを参照していただきたいのですが、これも理に適っているというか、よくできた分類だと思います。
実は後ほど紹介するPonpair独自の2タイプ分類にかなり近いものでもあります。
なぜ分類が必要なのか
ここまで3つの分類法を紹介してきましたが、そもそも何のためにこれら分類を使うのか。
最初にある程度の道筋があれば、それに沿って味わいや香りを分析することで細かい差異も感じやすくなりますし、味の記憶が容易になります。
つまり、日本酒という広大なマップの上で、その酒がどのあたりに位置しているのかをあらかじめ確認することで迷子にならずに済むためのものなのです。
飲み慣れてくれば、意識せずともその酒の立ち位置を把握できるようになりますが、右も左もわからない初心者の頃は特にお世話になることが多いんじゃないでしょうか。
酒ありきの分類
一方でデメリットも存在します。
ペアリングを考える際、お店ではまず料理が先にあって、それに合う酒を探すのが一般的です。この場合に、これらの分類は充分に機能してくれないのです。
どういうことか。
これらの分類はあくまで最初に酒ありきの考え方で、その酒に合う料理の傾向を紹介してくれています。もちろん、そこからある程度は逆引きして考えることもできますが、この方法ではどうしても大雑把な結果しか導き出せないのです。
ですから、ペアリングを考える際は、面倒でもこのサイトで提唱しているように料理の香りと五味のバランスを逐一分析しながら、それに合う日本酒を導き出していく方法のほうがピンポイントで相性の良い組み合わせに出会えます。
ところで余談ですが、こういう酒ありきの考え方は、日本の食と酒の文化を如実に表しているなあと思います。ワイン文化圏において酒は食事と一緒に楽しむものです。一方で日本のようにまず酒があって、肴はそれを引き立てる添え物であるという考え方が、この4タイプ分類にも反映していると思うと興味深いですね。
このあたりのことは下記にも詳しいので暇なときにでも。
ペアリングで使える「2タイプ分類」
料理から考えるペアリングの際に分類は役に立たないと言いつつ、実は大まかにふるいをかける意味合いでは私も酒を分類することがあります。
日本酒は大きく分けて2種類
非常に乱暴なのは分かった上で書きますが、結局日本酒って大まかに分けたら二種類しかないんですよ。すなわち華やかでフルーティな酒か、穏やかで落ち着いた酒のどちらか。
分け方の着眼点としては先ほどご紹介のカネセ商店さんの分類にかなり近くなります。華やか系=モダン、穏やか系=クラシック、とも言い換えられますので。
華やか系と穏やか系の極北同士を比べると、どちらも日本酒でありながら全く別の酒と言ってしまっても過言ではなく、ワインで言ったら赤と白くらいには特徴や傾向が異なります。
もちろん、それぞれのタイプの中で味の濃淡だったり細かい差異はありますが、ペアリングを探るときの最初の段階においては、あまり細かく分けてしまっても却って身動きが取れなくなります。
ですから、2タイプのいずれかに寄っているのかを見極めるだけで充分なのです。
それぞれのタイプの傾向
まだあまりイメージが湧かない人もいると思うので、それぞれのタイプについて大まかな傾向を表にしてみました。
※あくまで傾向です。例外もたくさんあります。
タイプ | |
フルーティな香り | |
熟成香 | |
温度帯 | |
精米歩合 | |
絞ってからの時間 | |
酸の種類 |
華やか系の代表的銘柄
獺祭、十四代、而今、寫楽、飛露喜、栄光富士、東洋美人、鍋島、花陽浴、鳳凰美田、来福、出羽桜、仙禽、醸し人九平次、etc..
穏やか系の代表的銘柄
下記参照。
具体的に銘柄を見たらなんとなくイメージがわいたんじゃないでしょうか?
もちろん、どちらともつかない酒も多くありますので、無理やり二極化させる必要はありません。あくまでどちらにより近いかを考えてもらえれば。
実際のペアリングへの生かし方
フローチャート
文章だけだとちょっとわかりづらいと思うので、まずはフローチャートで図示してみます。
解説
最初は料理を分析しますよね。次に、その料理が華やか系日本酒を合わせられるものかどうかを判定します。(「下記のいずれかに当てはまる?」の部分)
具体的には下記のうちどれか一つでも条件を満たしている料理ならば華やか系日本酒でもOKということになります。
- 乳製品を使っている
- フルーツを使用している
- ハーブを使用している
- 酸味が強い
- 香りの強い食材を使用している
- 淡泊で主張が弱い
- 冷やして食べると美味しい
ここに当てはまる場合は、華やか系は当然候補になりますが、穏やか系が対象外になるわけではありません。結局、華やか系がいけるものは穏やか系でも合わせられるんです。つまり全ての酒がペアリングの候補となるので、そこはご注意を。
逆に、上記条件に当てはまらない料理の場合は、華やか系が候補外となりますので、それだけでかなり絞り込みができます。残った穏やか系だけが候補になるわけですから。
なお、華やか系(≒フルーティな日本酒)と料理のペアリングのコツについて詳しくは下記をご参照ください。
ここで絞り込みができたにせよ、できなかったにせよ、そこから先はいつものメソッドを活用してペアリングを探ってください。
まとめ
分類を活用することは決して悪いことではありません。うまくすれば、それなりに満足できるペアリングを見つけられるでしょう。しかし、目の覚めるような新しい組み合わせには、なかなか出会えないこともまた事実。
そして分類に頼り過ぎると先入観という魔物に取りつかれやすくなり、それが貴重なインスピレーションを阻害する原因にもなります。
初心者から卒業して上級者を目指す上では、型どおりでなく枠からはみ出した自由な発想が求められます。かといって、実力が伴わない段階で思いつくまま当てずっぽうにペアリングを試すのも時間の無駄です。やはり初期段階では先人の作った類型を活用するのが賢明と言えます。
つまり守破離ですね。澤屋まつもとじゃないですけど。
ペアリングは実に奥が深い。私もより皆さんに喜んでもらえるような日本酒ペアリングを追求して、日々精進していきます。
それではまた!