近年はイタリアンやフレンチのみならずスパニッシュなどでも料理に日本酒をペアリングするお店が増えてきました。
このような動向を気にしつつ日本酒を扱うことも検討しはじめている洋食系飲食店のオーナーさんも結構いらっしゃると思います。
そんな人のために、なぜ今洋食系の店で日本酒を扱うべきなのか、主観に基づいた暴論も交えつつ解説していきます。
西欧料理との意外な相性の良さ
ご存じの方も多いと思いますが、日本酒は洋食と意外に相性が良いのです。
日本酒といえば和食一択!の時代はすでに過ぎ去りました。
一言で日本酒といってもフルーティでサラダに合うようなものもあれば、驚くほど濃醇で肉や脂に合うものまで本当に幅広く存在します。
チーズなんかは白ワインよりもむしろ日本酒のほうが旨味が持続して美味しいという研究結果もあるくらいです。
最近では日本酒もワインのごとく酸を強めにするトレンドがあるので、そういったことも洋食との相性につながっています。
日本酒は何にでも合う、とまでは言いませんが、合わせ方のコツさえつかめばかなり広いレンジをカバーできるのです。
近年の世界における日本酒の立ち位置
世界的に見て近年の日本酒はどのような評価をされているのでしょうか。
輸出量を見てみるとここ数年で急速に増加しています。
関税局の2017年貿易統計によると、2017年の清酒の輸出量は前年比の19.0%増、国別にみるとイタリアは20.1%増、フランスでは57.7%増だそうです。
フランス料理は時代とともに徐々に様変わりし、ここ最近では必ずしも伝統的な重くて濃厚な料理ばかりではなくなってきています。
そんな中で本場フランスでも日本酒が選択肢の一つとして注目を浴び始めました。
パーカー・ポイントで有名なあのロバート・パーカーが2017年より日本酒を採点し始めていることからもそれは伺えます(個人的には疑問符が付く採点も少なくなかったですが)。
他店との差別化
東京では2015年に「フレンチ割烹ドミニク・コルビ」がオープン。日本酒×フレンチの取り合わせで有名になり、そこから洋食と日本酒のペアリングがプチ流行する兆しもありました。
とはいえ、まだ一般化するには程遠い状況です。
冒頭で「増えてきた」とは書きましたが、洋食系飲食店で日本酒を置いている店は数えるほどです。
増えない理由はいろいろと考えられますが、日本酒が洋食にも合うことを知られていないのが主なところでしょう。
加えて、ペアリングにおいてはそれなりの知識と経験と工夫が必要になるので、まだまだハードルは高いのかもしれません。
ですから、今ならまだ洋食店が日本酒を扱うことで他店との差別化に繋がると言えましょう。
自己表現としての酒選び
ここからはやや暴論。
洋食系に限った話ではないですが、個店を出すほどの料理人またはオーナーさんは、皆さん表現者であると思います。
お客様に喜んでいただくことが第一でありながらも、同時にその店独自の料理やコース、ペアリングを提供することは自己表現手段の一つと考えている方も多いのではないでしょうか。
自己満足に陥ることは避けなければいけませんが、完成度に加えていかに自己表現を織り交ぜることができるか、それが個店を経営する意味の一つであると思います。
料理人を表現者と評するのはやや大げさですが、客の求めるものだけを素直に提供するだけでは、やはり飽き足らないでしょう。
その客の期待をいかに鮮やかに、そして華麗に裏切るか。もちろんポジティブな意味で。
料理が芸術であるとするならば、それこそが料理人の為すべき仕事だと思うのです。
西欧料理はワインありきでレシピが作られている側面もありますので、ワインと相性がいいのは当然。
いわば、それは予定調和です。そこにあえて、ある意味異物ともいえる日本酒を取り入れることは、表現者として意欲的なチャレンジといえます。
ただ、そうは言っても予定調和をぶっ壊すだけなら必ずしも日本酒である必要性はないんです。
老酒でもマッコリでもテキーラでもいい。ノンアルコールのお茶をペアリングの相手にしている店もあります。
でも、やっぱり我々は日本人です(違う人いたらすいません)。そのアイデンティティを西欧料理の枠の中で表現しようとするとき、日本酒の存在は大きなヒントになるのではないでしょうか。
お客さまはほんの少しの違和感を求めている
個人的な話で恐縮ですが、私はずっと音楽を作ってきました。
そこで気づいたのですが多くのリスナーは聴き慣れた音の中に「ほんの少しの違和感」を求めているのです。
基本的に、日本人は変化を嫌います。既視感のあるものや聞き慣れたものから外れてまで冒険しようとしないんです。
食に置き換えると、食べたことのない新しい料理は敬遠され、昔から食べ慣れた料理のほうが好まれる傾向にあるのです。
つまり、食事でも音楽でも新奇性を求めるよりも安心感を求める人のほうが多いということです。
これはある意味本能的なものです。
特に食べものに関しては、危険を冒して新しいものにチャレンジするより、実績のある食べ慣れたもののほうが命をつなげる可能性が高くなりますから。
郷土料理やおふくろの味を求める心理の奥にはそういうメカニズムがあるんですね。
ただ、そうは言っても同じものばかり食べているとそれはそれでマンネリ化して飽きてしまいます。
そこで「ほんの少しの変化」を求めるのです。
先ほど散々煽っておきながらアレですが、芸術はアヴァンギャルドであればそれでいいわけではありません。
料理人は表現者であると同時に経営もしていかなければ成り立ちませんから、自己表現とポピュラリティのバランスをいかにとっていくかが重要になります。
洋食における日本酒はまさにそういった「ほんの少しの違和感」を感じさせるのに最適な存在なのです。
やり過ぎはいけません、あくまで安心感の中に軽い裏切りを忍ばせるのです。ひいてはそれがあなたの店に深みを与え、お客様の満足にも繋がるものと信じています。
今日のまとめ
・日本酒は西洋料理とも相性がいい
・世界的にも日本酒と洋食のペアリングは注目され始めている
・酒選びは自己表現のひとつ
・ほんの少しの違和感を意識することが大切