コラム

開栓後の日本酒の保存方法について考察する

日本酒の保存方法について、温度と酸化が開栓からの時間でどのように味に影響するのか実験を通して検証してみました。

保管温度については以前の記事でも取り上げていますので、こちらも参照してください。

開栓後の保存に関する疑問

一般的に、日本酒は開栓したら(1)冷蔵庫に保管し(2)なるべく空気(酸素)に触れさせず(3)早めに飲みきる、これがセオリーとなっています。

私も半ば盲目的にこのセオリーを信じていましたが、これらを守らないと本当に不味くなってしまうのか、どの程度までなら許容されるのか、知りたくありませんか?

保管温度

冷蔵庫(5℃前後)で保管する一番の理由は火落ちを避けるためです。火落ちについての詳細は先ほど貼った「日本酒の冷蔵保存は本当に必要なのか」を参照していただきたいのですが、要は乳酸菌の一種による激しい劣化のことです。

この菌は空気中どこにでも存在し、28~30℃で最も活性化すると言われています。ですから、これを失活させるために低温で保管すべき、というわけです。

理屈はわかります。しかし、これまで多くの酒を開栓後に常温放置してきましたが、実際に火落ちの憂き目に遭ったことは数えるほどしかありません。ですから、ここは思い切って火落ちのリスクを抜きにして考えます。

そうなると、保管温度によって味そのものにどのような変化が起こるのでしょうか。

空気による酸化

酸化によって酒が劣化するのを防ぐためには、バキュームポンプ(バキュバン)で真空状態にする方法と窒素ガスを注入することで酸素と触れないようにする方法があります。その他、小瓶に移し替え、目いっぱいまで注いで蓋をするという手も。

そもそも、酸化でどの程度酒の味が変化するのか。変化したとしたら、それは本当に劣化といえるのか。このあたりが非常にモヤモヤしてるんですよね。

経時変化

日本酒は大別すると「早飲み推奨」のものと「熟成推奨」の二種類があります。以下の記事で言うところの「燗向け」はイコール「熟成向け」でもあります。

熟成向けの酒に関しては、経験上、開栓で長期間放置しても不味くなるどころか、まとまりが出て旨みが増します。ですから問題になるのは華やかな「早飲み推奨」のほうですね。

こちらは時間と共に香味が減退し、味わいも劣化すると言われていますが、果たして事実なのでしょうか。

実験

概要

温度、酸化、経時変化、これら三つの観点での変化を調べるために酒を小さな容器に移し替え、それぞれ条件を変えてテイスティングをしていきます。

容器は明治の飲むヨーグルトのシリーズを使用。100mlちょっとでちょうどいい容量なんですよ。これを水洗い&エタノールで消毒。乳酸菌が残っていると台無しですので洗浄は入念に行いました。

実験に使用する酒は、ご存知「獺祭45」。華やかな早飲み推奨酒なので酒質が変化しやすいであろうことと、メジャーな銘柄を使ったほうが皆さんイメージしやすいでしょう、ということでチョイスしました。精米歩合以外のスペックがほぼ非公開なのが残念。

比較条件

以下、それぞれの条件に対応する4パターンを設定。

 満杯半量
冷蔵保管(5℃)ac
室温保管(22℃)bd

これらを2日目、7日目、14日目でそれぞれ比較。4×3で合計12本の容器が必要になります。

酒を瓶の口までいっぱいに入れて蓋をしたものと、半量までしか入れないものは、言うまでもなく酸化の影響を確かめるために用意。

空気に触れる面積に比例して酸化作用にも差が出るはず、という仮定のもと実験を行っていきます。

ぎりぎり満杯まで入れたもの
半量まで入れたもの

官能評価

飲用温度は13℃~14℃のいわゆる冷や(常温)で、ワイングラスを用いて評価します。

口開けのインプレッション

まずは基となる口開け時の味わい。立ち香は華やか。上級アルコールの香りも少し。柔らかい甘み、酸は低め。旨みのバランスもいいが、終盤やや苦味と硬さがあるか。基本的にはキレイで非常にバランスがいい酒。

このインプレッションが今後の基準になっていきます。

2日目

a.満杯 / 冷蔵保管

香りは開けたてに劣らず。アルコールのツンとした感じは後退したか。甘みは変わらないが、明らかに酸が前に出てきている。輪郭がはっきりしてむしろ開けたてよりも洗練された感じ。苦味は若干減退した。

b.満杯 / 室温保管

吟醸香は少し弱くなり、ごく軽い乳酸の香りが。甘みは弱くなり冷蔵よりもさらに酸が前に。まとまりがなく、どこか尖ったチグハグな印象。

c.半量 / 冷蔵保管

香りは若干弱くなっているがそれなりには維持しているか。全体的に色あせて薄くなったか。明らかにパンチがなくなっている。苦味は少しある。含みでアルコールっぽさも感じた。

d.半量 / 室温保管

後退はしたが、それなりの吟醸香。この日の4種のうちではもっとも柔らかい甘み、酸もそれほど前に出てきてはいない。ただ、やはりパンチは弱い。

2日目所感

この時点ではa.満杯 / 冷蔵が最もまとまりがあって美味しく感じた。c,dの半量は温度に関わらず若干ぼやけた印象。bに関しては明らかに他と違う乳酸臭があったので、ヨーグルトの乳酸菌が残って影響した可能性も。だとすれば参考にはならない。

7日目

a.満杯 / 冷蔵保管

立ち香は開けたてに劣らず。甘みが増して液性に若干のとろみを感じる。酸は2日目よりやや低くなったか。これはこれでまとまってていい感じ。

b.満杯 / 室温保管

同じく立ち香は開けたてに劣らず。甘みは若干aの冷蔵よりも少ない。その分、酸はそこそこ感じる。

c.半量 / 冷蔵保管

立ち香は後退したものの、まだそれなりにはある。ただ含み香が弱く、水っぽい。全体的に味わいにコシがなくなっている。

d.半量 / 室温保管

香りも味もcの冷蔵とほとんど差はないが、強いて言うなら、やや甘みが強いか。

7日目所感

a,bの満杯組はほとんど劣化した感じはない。ただ、c,dの半量組は明らかに薄く水っぽさが増しており、2日目で感じたぼやけ具合が加速した。

14日目

a.満杯 / 冷蔵保管

立ち香は若干後退したか。それでも十分香るが。7日目に比べてややまとまりがなくなっているような印象。最後に弱い苦み(雑味)が再び出てきたのでそれの影響かもしれない。

b.満杯 / 室温保管

立ち香はa.冷蔵と変わらず。甘みは若干冷蔵よりも強い。酸のコシもあり、悪くないバランスだが、やはり最後の苦味が気になる。

c.半量 / 冷蔵保管

香りはa,bの満杯組とあまり変わらず。しかし、含み香が弱く、やはり水っぽい。7日目よりさらに味わいにコシがなくなっている。満杯組と同じく苦味が出てきている。

d.半量 / 室温保管

cの冷蔵とほとんど差はない。

14日目所感

この日、全てに共通して感じたのは苦味。初日の口開け時にも感じたが、それとは少し異なる感じ。いずれにしろプラスには働かない。香りについては予想していたほど減退していなかった。

総評

結論から言うと、まず保管温度は大きく影響せず

時間に関しては、むしろ口開けより2日後くらいのほうが落ち着きが出てまとまる印象。そこから少しずつ変化はしていきますが、1週間程度であればなんとか味が保たれることがわかりました。それ以上置くと、獺祭の場合はなぜか苦味が出てきます。

問題は空気に触れることでの酸化。これが思ってた以上に味わいへの影響がありました。常時空気に触れさせたものは明らかに立体感やメリハリがなくなる。薄っぺらく、ぼやけた感じになってしまいます。

まとめ

冷蔵には、そこまでこだわる必要はなし(もちろん飲食店は火落ちリスクを最小限にするために冷蔵したほうが無難ですが)。口開けはむしろ硬く、1日から2日置いたほうが飲み頃。酸化の影響は大きいので、なるべく酸素に触れさせない工夫が必要。

飲み屋で華やかな日本酒を頼んで瓶底に少量しか残っていなかったら、それは味のメリハリが失われている可能性ありってことですね。

なお、これは獺祭45の結果であって、全ての早飲み系に共通するかはわかりません。生と火入れでも大きく変わるでしょうし。また、何度も言いますが熟成系、燗酒系は放置して空気に触れさせることで美味しくなる場合も多々あります。

いずれにしろ、程度の差はあれど酸化によって時間経過とともに角がとれて丸くなっていく。これは確実なようです。

で、それを良しとするか良くないものとするかは求める酒の味によるんですね。つまり、フレッシュでメリハリのある味わいを求めるなら早めに飲むべきだし、まろやかでふんわりした味わいを求めるなら数日置くほうがベターであるということ。

このあたりを考えながら管理をしていくとより良い日本酒ライフを送れるんじゃないでしょうか。

それではまた!

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