どういうわけだか、最近「八海山 普通酒」に惹かれているんです。
悪い言い方をしてしまえば、珍しくもなく何の変哲もない、コンビニにも場末の居酒屋にも置いてあるあの酒です。
この酒のどこにそんな魅力があるのか?そのあたりを考察していきます。
抱いていた誤解
正直に言ってしまうと、これまで様々な日本酒を飲んできましたが、この酒に魅力を感じることはありませんでした。
だってさ、雑味はないけど全体的に味はうっすいし、日本酒の醍醐味ともいえる甘みはほとんどなくて、酸も弱いから骨格がない。そして、中盤でぼんやりした旨味を感じてそのまま消えていく。
なぜこの酒がそんなに支持を得ているのか不思議でなりませんでした。
どうせ、味が分からない輩が適当に選んで飲んでいるだけだろうと。
しかし、それは明らかに間違いでした。
もちろん、そういう人も少なからずいるとは思いますが、この酒にはこの酒なりの良さがあって、そこに惹かれるリピーターは確実に存在しています。
そもそも、パック酒に比べたら普通酒の割にはまあまあいい値段するしね。(720ml1100円程度)。
少なくとも安さだけを求める人がこれを選ぶとは思えないんですよ。
食中酒としての実力
では、何が魅力なのか。
それはおつまみや料理とやたら合わせやすいということ。
食べ物とペアリングさせて初めて酒単体で飲んでもわからなかったポテンシャルに気付くのです。
旨みだけにフォーカスしたペアリング
例えば、まずもって日本酒と合いそうもないフライドチキン。
チキンをもぐもぐしてから、八海山を一口含むと、最初は水かと思うくらい酒の味がしないんですが、旨みの段になって急に酒が存在感を発揮してくるのです。
口内に残ったチキンの旨味を酒の旨味がフックアップして増幅される感覚。
甘味や酸味など一切余計な味覚が介在せずに、旨味だけにフォーカスする今までにないタイプのペアリング。
なにこれめっちゃ面白い。
合わせられる対象がやたら広い
言うまでもなく、これ以外でも淡白な魚や練り物、漬物など、いかにもすっきり系の日本酒に合いそうなものとはテッパンの相性。
つまり、振れ幅が非常に広いわけです。
さすがにどんなものにでも合う、とまでは言いませんが、ある程度味の濃い料理であっても不思議と馴染んでしまう親和性の高さがあるのです。
寄り添い系ペアリング
ペアリングの基本として同調またはギャップの考え方がありますが、これはそのどちらでもないんですね。
同調とは、同じくらいの強さ・濃さで馴染ませる手法、ギャップとは異なるもの同士をぶつけることで新しい味わいを生成する手法です。
八海山の場合は、言うなれば影のように寄り添って、最後に少しだけ背中を押してあげるペアリング。
まるで古式ゆかしき大和撫子みたいな。
でも、よく考えてみれば、旧来の日本酒と料理・つまみって、もともとそういう関係性だったんじゃないかと。
同調やギャップなどの、いわゆる「ペアリング」「マリアージュ」の考え方はあくまで西洋的なもの。
この寄り添い系のアプローチの中にこそ日本酒独自のペアリングの秘密が隠されている気がします。
もう少し体系的にまとめて方法論化したいところですね。
燗で化ける
もう一つ、この酒の面白いところは燗でかなり化けること。
燗をすることで劇的に美味くなる「燗上がり」とは違うのですが、アタックは柔らかく、ほんのりした甘味が顔を出すようになり、全体的にぐっとふくよかな味わいに変化します。
ただ、普通に燗をつけると、ややアルコールが鼻につくんですよね。
そこでおすすめしたいのが「ジョボ燗」です。
デキャンタージュをもじって「お燗タージュ」なんて言い方もされますが、やり方は簡単。
まずはやや高めに燗つけして、それを別の容器にジョボボボボと注ぐ。注ぎ終わったら、また元の容器にジョボボボボと戻す。
これだけです。
これをやるだけで、嫌なアルコール感は飛んで、より一層丸く柔らかくなります。ぜひお試しください。
まとめ
どうです?八海山、飲みたくなってきましたか?
同じく定番の本醸造も非常にバランスが良くて美味しいんですが、合わせる対象の広さは普通酒の方に軍配が上がるんですよね。
一般的に普通酒は敬遠されがちですが、飲み方のアプローチ次第ではいくらでも楽しめますので、毛嫌いせずにぜひ。