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クロワッサンと合う日本酒を探してみる

croissant

パンに日本酒を合わせてみようという無謀な企画第二弾。今回はクロワッサンです。

今回は相当苦労しました。様々な日本酒を試した結果、最終的に行き着いたのが白麹を使用した「仙介 特別純米 白麹 無濾過生原酒」。この酒がなぜクロワッサンと合うのか、ここに至るまでの紆余曲折も含めて記します。

ちなみに前回はカンパーニュを題材にして、酸を繋ぎ役にしたペアリングを探りました。

クロワッサンとは

クロワッサンの定義

クロワッサンを知らない人はまずいないと思いますが、一応定義づけするなら「バターを織り込んだ多層の生地を三日月形に巻き込んで焼成したパン」ということになりましょうか。

発祥はフランスともオーストリアとも言われますが、日本酒と合わせるにあたってはどっちでもいいですね。

バターを大量に使う

押さえておくべきはそのレシピ。パイ生地やデニッシュと同じくバターを何回も織り込んで層にすることで、あの独特の食感が生まれます。で、ここで使うバターの量がすごいんです。

レシピにもよりますが、10個作るのにだいたい100gくらいは使うのかな。自分で作ると分かりますが、もはや揚げ物ですよ、揚げ物。コンビニのレジ横にホットスナックとして並んでてもおかしくない。

そんなわけで、当然フォーカスすべきはバターということになるのです。

クロワッサンと合わせる日本酒を考える

このバターのふんわり口中に残るコクをどう生かすか。

方向性としては2つ。それなりに旨味のある酒で同調させるか、酸のある酒でさっぱりさせるウォッシュの方向。アヒージョでも使った手法です。

あとから詳しく書きますが、コクと旨みの同調狙いはイマイチだったため、今回はウォッシュを選択しました。結果的にいろいろ試しているうちにぴったりのものが見つかってしまった感じです。

合わせた日本酒

今回は過去を振り返っても最も苦労したんじゃないかな。様々な理屈を駆使して試すもどれもイマイチ。そんなこんなで結果的に十種類ほどの試飲を繰り返し、最終的に辿り着いたのが 仙介 特別純米 白麹 無濾過生原酒 でした。

こちらはその名の通り、白麹を使用した甘酸っぱく爽やか、かつ低アルコールの一本です。

仙介は神戸市東灘区の泉酒造の主力銘柄。フレッシュ感があってジューシー、どちらかといえば華やか系が多いですね。もう少しリーズナブルな琥泉という銘柄もあります。

※仙介は麹米に兵庫県産山田錦を使用します。琥泉はそれ以外。

白麹とは

大半の日本酒は「黄麹」を使用します。「白麹」は焼酎に使われることが多いのですが、最大の特徴はクエン酸を多く産出することにあります。それによって酸味の強い酒になるのです。

麹の役割などを書き出すとキリがないので、興味のある方はググっていただくとして、とりあえずは「白麹の日本酒は甘酸っぱい」と覚えておけば充分です。

(ただ酸っぱいだけでは飲みにくいので、ほとんどは甘味も強くして味のバランスをとっています)

実食

香ばしくホロホロと剥がれるクロワッサンの皮に噛り付くと、ふくよかなバターの風味が口いっぱいに広がる。

ここで仙介をちびり。酸が脂っぽさを洗い流してくれるかと思いきや、意外にもビビッドな酸とバターが融合して新たな味わいが生まれる。このまったりした酸味、どこかで…そうだ、レモンバターだ!

もう一度クロワッサンを齧り、今度は少し多めに酒を含んでみる。うん、悪くはないけどほとんど酸に支配されちゃって、さっきの化学反応が弱くなる。どうやら口に含む酒はかなり少なめが適量のようです。

考察

なぜこの酒とクロワッサンの相性が良かったのか。

クエン酸

ひとつは実食時の感想にもあるように、レモンバターやレモンカード(※)を彷彿とさせる味わいが生まれること。これ、クエン酸じゃないとダメなんです。酢酸やリンゴ酸だと尖りすぎてしまうし、コハク酸だと逆に太すぎて爽やかさがない。

※レモンカード…レモンにバターや卵黄をを混ぜて火を通したスプレッド。パンにつけたりお菓子に使ったり。要はレモン風味のカスタードクリームと思ってくれれば大きくは外れてません。

甘みの強さ

そして甘みが強いこともポイント。酸だけが突出しているとこのバランスは生まれません。他にも白麹の酒を試しましたが、やはり甘みが弱いものはイマイチでした。

アルコール度数(酒の強度)

もうひとつはアルコール度数。クロワッサン自体はほのかな甘みと若干の塩気があるだけですので、五味はいずれも弱くなります。数値化すると 塩1.5、甘0.5、酸0、旨3.0、苦0.5くらい。

ほら見て、なんて貧弱なチャート。

このため、度数が強くてパンチのある酒だと明らかに強度のバランスが崩れ、酒ばかりが目立ってしまいます。

その点この仙介は13度と非常にライト。クロワッサンとちょうど釣り合いがとれる強度なのです。

糠臭さが弱い

最後は日本酒特有の糠臭さが弱いこと。この糠っぽい風味がとにかく様々なパンと合わない。ただ、この酒は白麹の特性からか、そのあたりのクセがなく小麦の風味とも合わせやすかったのではないでしょうか。

敗れ去った酒たち

せっかくなので、今回いろいろ試した中で合わなかったものも記しておきます。酒のクオリティが低いわけじゃないですよ。あくまでクロワッサンとは合わないというだけの話です。

栄光富士 闇鳴秋水

まずはカプロン酸とバターが合うという理論をもとにカプカプしい酒として人気の栄光富士、季節限定モノで挑戦。その根拠の詳細は下記に。

合わせてみると逆にカプロンが強すぎでバランスが悪い。

獺祭45

ならばともう少し香りが控えめな獺祭を試すも、そもそも麹の風味とイーストの風味が合わない。栄光富士もそこは同じで、カプロン云々の前に考えるべきことがあるか。

仙禽 オーガニックナチュール

次は乳酸系の風味とバターの相性の良さを期待してのチョイス。

確かに風味は少し近づいたが、いかんせん精米歩合90%ということもあって強度が強すぎる。

龍力 熟成古酒 1999BY

ちょっと方向性を変えてアップルパイでも合わせた古酒を。互いの持つ焦げ感、香ばしさが協調すると見越してのチョイス。

確かにそこは悪くない。しかし、どうにも酒のほうが強い。クロワッサンが消えてしまう。

諏訪泉 満天星 純米吟醸 2013BY

じゃあ熟成感はあるものの、もうちょっと軽くて旨みがすっと抜ける満天星ではどうか。

いい線まで行ったが、これもちょっと強度が合わない。クロワッサンが負ける。

ただ、かなり惜しかったのは事実。ちなみに燗で本領を発揮する酒だが、ここでは冷やのほうが酸がシャープでベター。

十ロ万 2014BY

ここまで来て、甘味が強くて酸が弱いもの、しかも熟成で少し焦げっぽさがあればより調和するんじゃないかと推察。

甘さと落ち着きに定評があるロ万の4年半熟成を。しかし、これもまた酒のほうが強い。

思った以上に乳酸系の旨みが主張しすぎた。

東鶴 純米吟醸 白麹仕込

仙介の後、では同じ白麹ではどうかと思ったが、これもちょっと酒が強い。

風味の相性的にはいい線行ったんだけど、仙介に比べて甘みが弱いってのも今ひとつだった理由か。

その他

あとは丹澤山 純米吟醸 2014BY、旭菊 生酛純米、琵琶のささ浪 純米酒、十水 特別純米酒など。どれもいい酒なんですが、クロワッサンとの相性という強大な壁には勝てませんでした。

結論

クロワッサンには甘くてクエン酸が強く、なおかつアルコール度数が低い白麹の日本酒が合う!ただし、含む量はほんの少しで。さらに言うと、開けたては硬いので2-3日後のほうがより相性は良くなります。

ちなみにクロワッサンは、なるべくバターの風味がたっぷりで豊潤なものをおすすめします。

なお、今回は追求しきれなかった同調の方向で、軽くて酸が弱く、甘めで旨みが強い酒があったら合わせてみたいですね。

それではまた!