日本酒ペアリング実践

パンの中でもカンパーニュは日本酒と合わせやすい

campagne

前回はタンドリーチキンだし、その前は豚の血のソーセージだし、今さら驚かないと思いますが、それでもやはり日本酒とパンというのは、ある種踏み込んではいけない領域のような気がしています。まあ、踏み込んじゃったんですけど。

というわけで、今回は洋食と日本酒のペアリングを追求するなら避けては通れないパンとの相性を考えていきます。

一言でパンと言ってもさまざまな種類があるので、一概に合うとか合わないとかは語れないんですが、とりあえず今回は比較的日本酒に合わせやすいと判断した「カンパーニュ」を取り上げたいと思います。

カンパーニュとは

正確にはフランス語で「パン・ド・カンパーニュ(Pain de campagne)」と言って日本語だと田舎パンという意味になります。

明確な定義はないんですが、ここではライ麦とルヴァン種という天然酵母を使用したやや酸味のあるハード系のパンをカンパーニュと呼ぶことにします。

この辺の酵母の話は日本酒と同じくらいややこしく、本数冊分くらいの深さがありますのでここでは触れませんが、とにかく、今回はフランスの酸味のある丸い田舎パンという認識でお願いします。

カンパーニュを分析する

合わせる日本酒を導き出すために、まずはカンパーニュの分析から。

そもそもなぜカンパーニュを選んだのか。それは酸の存在。上でも少し書きましたがカンパーニュってちょっと酸味があるんですよね。しかも乳酸由来なので、同じ乳酸由来の酸を持つ日本酒と合わせることができるのではないかという予測ができたわけです。

カンパーニュの五味チャート

いつものごとく五味を数値化してみると、甘0、塩1、酸3、旨3、苦0.1って感じですかね。

比較的特徴のはっきりしているカンパーニュでも数値化するとふわっとした感じなので、今後挑戦しなくてはいけない他のパンのことを考えると若干憂鬱になります。

合わせる日本酒を考える

最初にネタバレしてしまうと、実は今回相当悩んだんです。だって、パンですよ?普通に考えて日本酒と一緒に食わないでしょ。

で、私が最も信頼する酒屋の一つである大塚の「地酒屋こだま」の店主であるタケさんに相談したら、速攻で出てきたのが「自然郷SEVEN」だったんです。

なんでこれが合うと思ったんですか?と聞いたところ「わかんない、感覚。」とのことで、まあとにかくタケさんが言うなら信じてみようと実際に合わせてみたらこれがバッチリなわけですよ。この人マジですげえなと。

そうなったら私の役割はこの相性の良さを理屈として考察して人に伝えることに尽きますよね。

ではなぜ自然郷SEVENとカンパーニュが合うのか。まずは酒について詳しく見ていきましょう。

自然郷SEVEN 純米吟醸

福島県で開発された酵母F-7(うつくしま夢酵母)と精米歩合60%の夢の香を使用しています。とにかく全て福島産の原材料にこだわるというコンセプトのお酒。

F-7酵母のおかげかフルーティではあるんですが「食事に寄り添うお酒」を標榜していることからもわかるように、派手派手しい感じではありません。しかも、今回チョイスしたのは火入れなので、ほどよく落ち着きがあります。

香りに関しては落ち着きがあると言いつつ、飲み口はフレッシュでジューシー。こういう火入れが上手な酒、好きなんだよなあ。生酒と火入れのいいとこ取り。

含むと軽いガスを感じた後、上品でエンベロープの長い甘みがやってきます。その後、引き締まった酸が一旦口中を支配しますが、まだ甘みがふんわり残っているんですよね。で、その甘みの余韻と次にくる旨味を同時に味わおうと思ったら、その時間は一瞬で、すぐにあっけないくらい儚く消えていくのでした。

うーん、これはレベル高い。単品で飲んで十二分に楽しめます。

実食!

お酒はめちゃめちゃ美味いんですが、カンパーニュと合わせたイメージが全くわきません。本当に大丈夫か?と疑念を抱きつつパンをちぎって頬張り、ほんの少し口の中に残っている状態で酒を含んでみます。

こ、これは…!確かに合う。カンパーニュの酸味を伴った旨味が、ちょうど酒の酸味、旨みと同じくらいのレベルなのでキレイに同調するんですな。

分析と考察

五味チャートにするとこんな感じ。

一つの味が突出しすぎず、ボリュームの最大値が揃っていますね。同調のセオリー通りです。

そして旨味と酸味メインのカンパーニュに対して、日本酒で甘みを補完。これによって全体に適度な立体感が生まれています。

別の酒との相性

一応他の酒も試したんですが、やはり自然郷SEVENが一番でした。

例えば乳酸に着目して燗酒系を合わせてみると、それ自体は悪くないものの、酒のパンチとボリュームが強すぎてパンが負けてしまう。逆に淡麗な酒だと今度は酒が負ける。フルーティなタイプは言わずもがな、香りが邪魔になる。

今回は手元に用意できませんでしたが、もうちょっと乳酸風味があってSEVENと同等の五味バランスで、香りがさらに弱い酒があれば、あらためて合わせてみたいですね。

オイルの添加について

今回は検証的要素が強かったので、何もつけずに素の状態のカンパーニュと日本酒を合わせましたが、少しならオリーブオイルやバターを添加しても問題なく合います。油分が乗ると若干バランスは変わってくるので、あくまで少量で。

まとめ

今回も何とかペアリングを成功させることができました。五味のバランスをしっかり把握できれば、パンであろうと日本酒に合わせることができることを実証できたと思います。

ただ、まだ課題は残ります。パン独特の香ばしさと小麦の風味の部分でどうしても米由来の日本酒とは馴染みが良くないんですよね。今回の酒は立ち香が抑えめなので特に問題にはなりませんでしたが、欲を言えばこの香りや風味の部分でもマリアージュさせたいところ。

ちなみに何か具をのせるってのはナシです。焦点がその具との相性にシフトしちゃって、ちょっと軸がずれてきますので。あくまでベースとなるパンそのものと、日本酒の相性を図っていきたい。

逆に言えば、ベースの部分が合えば、その他の部分のペアリングはぐっと簡単になりますからね。

とにかく、パンを攻略できたら洋食系の店に日本酒を置くハードルが一気に下がりますので、引き続き別の種類でも追求していこうと思います。

最後に、突然の無茶振りにも快く対応していただいた地酒屋こだまさんには改めてお礼を申し上げます。

ではまた!