今回は定番のフレンチ海鮮寄せ鍋ことブイヤベースに愛知が誇る銘酒、長珍から2種類をペアリングさせてみます。トマトベースの料理と日本酒は非常に合わせやすいですし、それに加えて日本酒が大得意とする魚介まで入ってるんですから余裕でしょう!
ブイヤベースとは
ブイヤベース(bouillabaisse)は南フランスはプロヴァンス地方の魚介を香味野菜で煮込んだスープ。特にマルセイユでは地元の名物として有名です。レストランではもはや定番ですし、なんなら家庭でも簡単に作れます。
ちなみに「ふかひれスープ」「トムヤンクン」「ボルシチ」と並ぶ世界三大スープと言われますが、誰が言い出したんだこれ。全部で4つあるし。
ブイヤベース憲章
マルセイユには「ブイヤベース憲章」なるものがあって、入れる材料に制限があったり、サーブする方法がある程度決まっていたりします。で、それを守ってはじめて正統ブイヤベースと名乗れるのだそう。適当にそこらの魚や貝をぶちこんでポイっと客に出すだけでは「”正統な”ブイヤベース」を名乗ることはまかりならんと。
興味ある方は適当にググってみてください。いろんなサイトで紹介されているんですが、微妙に記述が異なっている上、いずれも出典が書いていなくて不正確なので、ここでは紹介しません。
いずれにしても、こういうのって大事ですよね。どっかの国でThis is 和食!って言いながら、わけのわからんスパイシーな料理出されたらたまんないし。
アクアパッツァとの違い
ところで、イタリアのアクアパッツァと非常に似ているので混同しがちなんですが、アクアパッツァは煮込んだ魚がメインの料理であるのに対して、ブイヤベースは魚介を使ったスープ(汁物)なんですよね。味的にはブイヤベースのほうが濃厚でハーブも多用します。
要するに、ブイヤベースはそれなりにハーバルで濃厚な鍋、アクアパッツァはややさっぱりした魚の煮つけという感じでしょうか。
分析
材料
それでは、概要がつかめたところで材料の分析から行っていきます。とりあえず、今回題材とするのは特に正統派でも何でもありません。なので、材料も日本で入手しやすい食材を使います。
具材:タラ、ムール貝、有頭殻付きエビ、ジャガイモ、ニンジン
スープ:トマト、タマネギ、セロリ、ニンニク、白ワイン
スパイス&ハーブ:ディル、ローレル、コショウ、サフラン
香りの解析
香味野菜やハーブが多く、さらに磯の香も混ざるので、非常に豊かなフレーバーを持ちます。このため、ある程度は吟醸香のある日本酒でも大丈夫でしょう。ただ、あくまでハーブ類は脇役。臭みを消す役割なので表立って主張はしてきません。
五味の解析
塩2 甘1 酸3 旨4 苦1くらいかな。
雑多に食材を使いますので風味は複雑なんですが、五味のメインはあくまでトマトの酸と魚介の旨味。それに加えて野菜由来の甘みが少々といったところ。
合わせるべき日本酒を考える
エビグラタンの回ではエビのミネラルを繋ぎ役として利用しました。今回は前回にも増して豊富にミネラルを含む海の素材をふんだんに使った料理です。というわけで、やはり今回もミネラルを軸に考えていきます。
ミネラリーな日本酒
日本酒は硬水~中硬水を使用することでミネラル感が出ます。それから、米の品種は八反錦がダントツでミネラリー。
この二つの条件を満たせる銘柄はいくつかありますが、今回は愛知の長珍をチョイスしました。しかも2種類!初の試みです。
とりあえずミネラルという条件だけですでに銘柄を絞ってしまいましたので、あとは実食しながら、五味や香りのバランスが適当かを検証していきます。いつもとは順序が違いますが、まあこういうやり方もありますってことで。
ところで、なぜ長珍なのか。それは個人的に行きつけの酒屋で扱っており、入手しやすいから。そんないい加減な!自分の近所には扱ってる店ないよ!という方もいらっしゃるでしょう。
そういう場合は、最寄りの酒屋で「ミネラル感のしっかりある酒」もしくは「硬水~中硬水の固い酒」という感じでリクエストしましょう。それで何も出てこないなら仕方ないですが…
長珍
長珍は愛知県津島の酒蔵で骨太な濃醇酒を身上としています。明治元年に創業して当時の屋号は「提灯屋」だったそうですが、酒じゃなくて提灯を扱ってると勘違いされることもあったそうで長珍に名を改めたとか。長く珍重される酒を、という願いが込められているそうですよ。
ここの酒は熟成耐性が強いしっかりしたものが多くて、それこそ非常に重宝します。春先にリリースされる新酒のしんぶんしシリーズなんかも有名ですね。
個人的には通年商品である火入れの特別純米が大好きで、乳酸感とふんわりした旨味、それらをまとめ上げる骨格がたまらない。何度飲んでも飽きない銘酒だと思います。
で、今回チョイスしたのはこの2種類。
まずは八反錦を使用したささにごり(うすにごり)の無濾過生原酒。うすにごりらしく、柔らかさもあって非常に飲みやすいが、八反錦だけあって堅めのストラクチャー。
次にしんぶんしシリーズを生熟成させた一本。生熟なので丸さと滑らかさを備えているんですが、これも八反錦をメインで使っていることからしっかりとミネラルを感じられます。( 麹米:山田錦、掛米:八反錦)
実食!
それでは実食しながらそれぞれの相性を見ていきます。
まずは本日の主役、ブイヤベースを盛り付けて卓上へ。甲殻類独特の磯っぽさにハーブが絡んだ香りが食欲をそそります。とりあえずはスープのみをスプーンで掬い、口に運びます。ああ、じんわりと旨味が広がる。美味い。次はムール貝を殻からはがし、スープと絡めていただいてみよう。うん、予想通り貝のミネラルがほんのりとした苦味とともに堅牢なストラクチャーを構成、この硬度の高い鉱物的ニュアンスは、いかにも西欧料理のもつ特徴といえます。
さあ、まだ余韻が残っているうちに酒を流しこみましょう。
ささにごり八反錦
そこそこフルーティな香りが。甘さはまずまずあって、ふんわりした旨み。甘味とセットで非常にキャッチー。酸は目立たないがバランスよく含まれていますね。ラストで八反錦らしい硬さとミネラルを強く感じます。
合わせるとブイヤベースに酒の甘味がほどよく補完されて面白いですね。
旨みは完璧に同調。同調しすぎてよくわからないうちに通り過ぎていくほど。こういうパターンも珍しい。
後半、狙い通りミネラルでもきっちり繋がります。
これは完璧なペアリング。
生生熟成5055
立ち香で生老ね香であるイソバレルアルデヒドが若干。
とろっとした甘みはやや強く、最後に生熟成らしい風味が残ります。酸は目立たず、最後のミネラル感と苦味はやや強めか。
ほのかなローレルの香りで生熟の立ち香はある程度相殺されますが、最後に軽く戻りがあります。ここがもう一ついただけない。
五味チャート的には、ささにごりと大差ないんですが、ここに表しきれないアルコール感というかボリュームがあって、それがブイヤベースを抑え込んでしまうので同調性は今一つ。
結論
軍配はささにごり八反錦に!甘味がこんなにいい働きをするとは想定外でした。若干ごちゃつく感じもありますが、それでも旨味とミネラルの同調っぷりは半端ないです。
こうして比べて見ると五味チャートだけでは測れない要素も結構あって、ペアリングは一筋縄じゃないなと、あらためて感じました。
まとめ
今回は2種類の酒で比べてみました。
実はいつも2種類どころか4~5種類の酒を試したうえで、最も相性の良かった組み合わせを記事にしているのですが、うまくいかなかったものも載せたほうが案外参考になるかなと思った次第。
次回からもこのスタイルにしてみようかな。
それではまた!