日本酒ペアリング実践

日本酒と鶏の唐揚げの相性を近づける

昨今、コロナ禍ということもあってか町のあちこちに鶏の唐揚げ屋さんが乱立していますね。

もはやカレー・ラーメン・寿司に次ぐ国民食と言っても過言じゃないと思います。

そんなお馴染みの唐揚げですが、日本酒とは相性があまり良くないと思いませんか?

ここまで多くの日本人に愛される料理が日本酒と合わないなんて、悔しいじゃないですか。

そんなわけで、日本酒に合わせるにはどうしたらいいのか、徹底的に考えてみました。

なぜ唐揚げと日本酒は合わないのか

まず考えるべきはここです。

日本酒には独特の麹臭さがあります。糠臭さとか炊き立ての米の香りとも表現されますね。

中盤で感じる旨味に重なる風味です。

これが、鶏肉の旨味と相性が良くない。あっさりした鶏の旨味よりも明らかに癖があって悪目立ちしてしまうんです。

まあ、全然気にならないって人も少なくないのですが、私はどうしてもここが引っかかるんですよ。

フライドチキンと日本酒を合わせたときも、ここで非常に苦労しました。

日本酒の糠臭さを緩和するには

では、この糠臭さを緩和するにはどうしたらいいか。

ひとつは、そもそもこの風味が弱いタイプの日本酒を選ぶ。

もうひとつは唐揚げからのアプローチで、味付けを変えることで日本酒の糠臭さをマスキングする。

正直、前者は難しいです。ある程度、酸が強めで精米歩合が高いものは糠の匂いが弱い傾向にはありますが、その分香りが華やかになりがち。

香り高い大吟醸と唐揚げが合うかと言ったら、これはこれで微妙なのはお判りいただけるかと思います。

そうなると、唐揚げに手を加えるほうが話は早いですね。

唐揚げのレシピは多種多様ですが、結局のところ基本的な味わいにそこまで大きな差はありません。少なくとも日本酒との相性を左右するほどには。

ではどうするか。そう、トッピングです。スパイスやソースなど調味料をつけることで味や風味に変化をもたらすのです。

試したトッピング

唐揚げにつけて美味しいものは何か。いろいろ考えましたが、とりあえず今回は以下を試してみました。

写真12時から時計回りに

柚子胡椒山椒塩クミン塩馬告(マーガオ)羊名人食べるラー油タルタルソーススイートチリソースおろしポン酢、皿の左がレモン汁タイ風たれ(ハチミツ+ナンプラー+レモン汁+乾燥パクチー)

このうち、おろしポン酢と馬告、羊名人については結果から除外しています。

おろしポン酢はレモンと、羊名人はクミン塩とほぼ同じインプレッションだったため、また 馬告は(対日本酒的に)あまりいい結果を得られなかったため除外しました。美味しいんですが、ちょっとマイナーなスパイスでもありますしね。

では、それぞれのトッピングと何種類かの日本酒をかけ合わせて答えを探っていきます。

それぞれの採点は各項目の横に◎〇△×の4段階で記します。

実食検証

本醸造

まずは本醸造から。アルコールを添加しているため、あっさりしているのが特徴。つまり、気になる糠臭さも弱いだろうという読みから選択。

銘柄はイオンなどスーパーでも買える真澄で。冷酒のほうがより旨みが締まるので、よく冷やしてからいただきます。

プレーン⇒△

最初は何もつけないプレーンのものを。うーん、やはり糠臭さがバッティングするなあ。

柚子胡椒⇒〇

塩気が足されて酒とのバランスがよくなるのと、柚子胡椒の香りが糠臭さを緩和してくれる。

山椒塩⇒△

山椒の香りが良く合って料理としては美味しいが、肉の味わい自体はプレーンとあまり変わらず。従ってペアリング的にもあまり変化なし。

クミン塩⇒◎

カレー的なニュアンスが足され美味い。クミンの香りが糠臭さと好相性で日本酒が生きる。

食べるラー油⇒〇

揚げニンニクとゴマ油の香りが足される。複雑にいろいろな味が絡み合う。糠臭さはその中の1要素となって混ざってくるため、あまり気にならなくなる。

タルタルソース⇒△

旨味の部分でコクが足されるのは糠臭さに対して良い効果を得られた。ただ、全体的にそこまで面白くはない。

スイートチリソース⇒〇

甘味が大幅に加わるのでペアリングの方向性が全く変わる。辛口の酒ではまあまあだが、むしろ甘い酒で合ってきそう。

レモン汁⇒〇

当然酸が足されることでスッキリした味わいに。レモンの香りが糠臭さをマスクする効果もあるので悪くない。

タイ風たれ⇒〇

面白い!ややナンプラーの癖はあるが、酸と甘味がそれを緩和する。糠臭さはあるが、いろいろな風味と味わいが混然一体となって賑やか。なんだろうこれ、つかみどころがないな。

フルーティ系

次はあえてフルーティな酒を。まずもって合わなそうですが、検証の結果見えてくるものもあるかもしれないので。

使ったのはお馴染みの獺祭45です。

プレーン⇒〇

あれ?意外に美味いぞ?糠臭さがそこまで強くないんですね。

柚子胡椒⇒〇

香りの部分でのマッチングと、糠臭さがマスキングされるのでかなりいい感じ。

山椒塩⇒△

本醸造のときと同じで、肉の味わい自体はプレーンとあまり変わらず。ただ、山椒の香りがフルーティさとあまり相性が良くない。

クミン塩⇒×

フルーティさとクミンの香りが全く合わない。

食べるラー油⇒△

味わいが重くなるので、ライトな獺祭とは合わない。

タルタルソース⇒△

なんかピンとこないな。なんでだろう…

スイートチリソース⇒◎

非常にいいですね。スイートチリとやや甘い獺祭の五味の組成が似てるんですよね。同調してすんなり体に入っていく感じ。

レモン汁⇒〇

酒と酸の相性はいいんだが、後半に消えてしまってペアリングとしてはあまり効果を発揮できず。

タイ風たれ⇒◎

これは合う!トロピカルな感じが甘みのある香りとマッチ。甘みとナンプラーの癖がちょうどいいハーモニー。

普通の純米酒

落ち着きのある火入れのスタンダードな純米酒ではどうか。

最も口にすることが多いタイプですかね。

春霞の純米をチョイス。ぬる燗で。

プレーン⇒×

ああ、ダメだ!これこれ、この感じよ。やはり酒の味が濃くなるほど旨みと糠臭さが出てくるので、ぶつかりますね。

柚子胡椒⇒〇

一気に相性が近づく。日本酒の酸が生きてくる感じ。

山椒塩⇒△

塩気が足される分プレーンよりはいいが、旨味の部分でのちぐはぐさは変わらず。

クミン塩⇒◎

とてもいい。やはりクミンと非フルーティ系日本酒は合うんですよ。

食べるラー油⇒〇

まあまあ、悪くはない。が、同調する部分が意外に少なくもう一歩かな。

タルタルソース⇒△

うーん、他の酒と同じくあまりピンとこない。

スイートチリソース⇒〇

まあまあ。甘酸っぱさが思ったほど生きてこない。また、糠臭さが少し気になる。

レモン汁⇒〇

燗はどうかとも思ったが、酸の部分で同調するので案外いい。

タイ風たれ⇒△

プレーンよりはいいが、相性の良さとしては本醸造と獺祭ほどではなかった。たれの甘味と酸味が持続せず、遅れて酒の旨味がやってくるので、糠臭さをマスクしきれない。

古酒

これもいわゆる糠臭さは強いタイプなので期待値は低いんですが、独特の香りがどう作用するか。ま、やるだけやってみましょう。

あまりゴツイと微妙なので本醸造の古酒にしました。

金鼓の18年もの。山廃本醸造原酒。めっちゃ美味いです。

プレーン⇒△

酒のほうが強いが、そこまで悪くもない。恐らく古酒の香りのおかげで糠臭さとのバッティングが気にならなくなっていると思われる。

柚子胡椒⇒△

明らかに酒の強さに負ける。柚子胡椒は万能かと思ったが残念。

山椒塩⇒△

こちらも酒の強さに押されてしまう。プレーンとあまり印象変わらず。

クミン塩⇒〇

予想通り合う。ただ、やはり酒のほうがやや強いか。

食べるラー油⇒◎

酒と強度がピタリと合う。これはかなり好相性。燗もいい。

タルタルソース⇒△

またもやハズレ。なぜだ!決してタルタルソースに罪はないんですが…

スイートチリソース⇒◎

甘味が同調。非常によく合います。

レモン汁⇒×

とてもちぐはぐ。そもそもレモンと古酒が合わない。

タイ風たれ⇒〇

悪くない。意外に同調するところも。古酒の複雑さとこのタレの複雑さが合うんですね。

スパークリング

最後、スパークリングを。

食感(テクスチャー)の部分で、揚げ物としゅわしゅわのスパークリングは相性がいいんです。

炭酸の刺激によって旨味の余韻が短いのも、ここでは奏功するかもしれません。

甘いフルーティなタイプではなく、落ち着いたドライ系の仙亀 かるくいっぱいをチョイス。

プレーン⇒△

テクスチュアの相性はいいが、やや酒の旨みが強く、相性としてはもうひとつ。

柚子胡椒⇒△

プレーンよりは少し近づいたが、基本的には同じような印象。

山椒塩⇒△

柚子胡椒と同様の感想。

クミン塩⇒△

さらっとしすぎてクミンと同調する要素があまりない、イマイチ。

食べるラー油⇒◎

スパークリングながら案外旨味が強いこの酒の場合は、むしろこのくらいパンチがあるほうが合う。ニンニクの旨味が同調する。意外だったがこれはいい。

タルタルソース⇒×

全然ダメ。タルタルさんすいません、結局あなたのポテンシャルを生かせる酒を見つけられませんでした。

スイートチリソース⇒〇

同調はしないが、なぜか美味しく感じる。なんだこれ?

レモン汁⇒〇

無難に合う。ただ、やっぱり酒の旨味が若干バッティングする。

タイ風たれ⇒〇

悪くない。が、少し糠っぽさが気になる。スパークリングで流されてしまう分、このタレの複雑さを生かしきれない。

まとめ

今回の検証でどのタイプの酒であっても、トッピング次第で相性を近づけられることが分かりました。

では、それぞれ最も良かったものを最後にまとめます。

本醸造⇒クミン塩

フルーティ系⇒スイートチリソース、タイ風たれ

普通の純米酒⇒クミン塩

古酒⇒食べるラー油、スイートチリソース

スパークリング⇒食べるラー油

意外と偏りましたね。最強はやはりクミン塩(クミンパウダー+塩)かな。甘めの酒であればスイートチリソースもかなりいい感じになります。

そして、突出して合うわけではないんですが、レモン汁柚子胡椒はどの酒でも大体悪くない結果になっています。とりあえず用意しておけば無難に合わせることは可能ですので重宝すると思います。

面白みという点では、タイ風たれですね。アジア系が苦手でなければ一度フルーティ系の生酒と合わせてみてください。

それではまた!