2019年は例年以上に酒量が増えたんですが、種類としては激減。どちらかというと、一つの酒の可能性を深く追求する方向にシフトしたためです。
また、ペアリングについてもう一歩深く足を踏み入れたことで、よりその方向性は顕著に。
ある料理に合わせる酒を探るとしましょう。
その場合、いきなり味を知らない酒で手あたり次第試すのはとても非効率。
まずは、すでに味をよく知っている酒である程度のあたりをつける。そこから目標にあった酒を探していくのです。
このため、これまで後回しにしていた定番酒を飲む機会も増え、ある意味では新たなフェーズに入ったとも言える年でした。
前置きが長くなりました。
以下より2019年に飲んだ中から特に素晴らしいと思った酒を部門ごとに分けて再掲していきます(一部加筆修正あり)。
完全主観の個人的セレクションなのでそこはご了承ください!
アル添部門
悲しいことに、いまだアル添には悪いイメージを持っている方が多いのが事実。
純米もアル添も良いものは良い。そんな当たり前のメッセージを今後も発信していければと思っています。
星泉 NO.8 無濾過生原酒 本醸造
珍しい8号酵母使用の本醸造。
いやいや、これはすごいぞ。
立ち香はカプロンでまあまあ香る。タンスのような埃っぽさもあるか。
甘みはそこそこだが超ジューシー。とにかく酸がしっかりしておりレモン系とアミノ酸が同居しており、味わいに芯がある。
酸から旨みへの流れがやたらスムーズなんだけど、この滑らかさはアル添の特質かもしれない。
意味のあるアル添の好例。
分福 本醸造 原酒 蔵内十二年貯蔵
完璧な古酒。チョコとの相性を図るために地酒屋こだまで奨められて購入。
結果は下記のとおり。
そこそこ甘みがあって旨味が非常に豊か。ほんのりした苦味、これがチョコとの相性を更に高めている。
生熟成酒部門
生熟成はリスクも多いですが、銘柄単位で選べばハズレは限りなく少なくなります。
日置桜 特別純米生酒 山滴る 23BY
生熟。非常に柔らかいアタック、ほどよい甘みに丸い酸。
生老ね香もほんの少しあるが、まったく問題にならないレベル。
燗にすると酸が立つ。これはこれだが常温のほうがむしろまとまる。
綿屋 純米生原酒 12BY
17年の生熟。
これは最高にヤバいブツ。
どんだけクセが強いんだろうと身構えたが、案外飲みやすい。
甘みはそこそこ、酸は弱め、旨みでぐっとボルテージが上がるがキレは良い。
生熟の癖がパクチー&スパイスとマッチ。ポークビンダルーと異常に合う。
これは発見だった。
十旭日 改良雄町60 生 26BY
約5年弱熟成した生酒。
精米歩合60%、日本酒度+9.5、酸度2.2、島根K-1酵母。
立ち香から若干のイソバレルアルデヒド。しかしそこに5年の歳月は全く感じさせない。
甘みはごく軽いが凝縮感のある酸がぎゅーっとやってくる。そのまま軽いイソバレ香と苦味を引き連れた重層的旨みへ移行。最後は軽い苦みでフィニッシュ。
なかなかクセが強くて暴れん坊な酒。アルコール度数も18-19度と高めなので非常にインパクトとパワーがある。
10~15%ほど加水すると飲みやすい。加水してもまったく味のバランスが崩れないのはすごい。
全くもって分かりやすさはないが、この複雑でパンチの強い暴れ馬を乗りこなせたらペアリングでも面白い使い方ができそう。
自家熟成部門
「普通、こんなの熟成させないだろ!」という酒を寝かせることができるのが自家熟成の醍醐味。火入れだったらほぼ失敗しないので、皆様もぜひ。
新政 エクリュ 純米 29BY
製造年月日が2017年12月なので、ちょうど二年間自宅の押し入れで常温熟成。
これが大正解。
香りは穏やかで酸強めの生酛だし、なんだかんだ強い酒質なのでいけるだろうと踏んで寝かしてたんですが、よもやここまで上手くいくとは。
新酒だとドライでライト、柑橘系のフルーティさと酸が特徴なんだけど、熟成で明らかにまとまりと深みが増した。
相変わらず軽めではあるんだけど、新酒に比べて芯の通った凝縮感があるので非常にジューシーでやばい。
萩の鶴 本醸造 27BY
※写真撮り忘れ
有名な宮城の定番銘酒。
すっきりした味わいが持ち味でアル添だが、これを熟成したらどうなるか。自宅の押し入れで約3年間放置実験。
心地よい熟香。甘さは弱いが最後まで続く。それなりに丸みを持った酸がすぐに現れ熟香と共に混然一体となってうまみへと変化。
まとまりがあって非常に良い熟成。
アルコール添加の過剰な雰囲気は全く感じ取れず。中盤から後半にかけての軽さにその面影があるか。
その他熟成部門
大倉 山廃特別純米 無濾過火入れ原酒 25BY
クミンと合わせるために購入。
乳酸系の立ち香。甘味は比較的ドライだが柔らかさもある。やや尖った乳酸と熟成によるこなれた旨味。
山廃特有のワイルドさもあるが焦げた熟味はほとんどない。
燗で甘味が増してさらにまとまりがよくなるが、クミンと合わせるなら常温のほうがいい。
辨天娘 生酛 強力 26BY
定期的に飲みたくなる辨天娘だが、生酛の強力は初めてかも。
当然ながら定番の玉栄や五百万石よりもふくよかで太い。
アタックも柔らかく、かなり味が乗っている。3年ちょっとの熟成だが辨天娘の場合、それでもまだ硬い。
そんなわけで2日ほど常温放置。さらに味が開く。
やはり夏でも冬でも燗酒が最高。
白影泉 山廃純米 28BY
奥播磨で有名な蔵ですね。この蔵の山廃はとにかく美味い。
で、これは2年半ほどの熟成だが、まだちょい若いかも。
甘みは若干弱めでコハク酸が強い。
冷やだと少しバラバラな印象もあるが燗で一気にまとまる。明らかに酸が旨みに変化するんだよね。 いやー、これは素晴らしく旨い。
どこかフルーティさも感じるのは山田錦55%の精米歩合も関係しているのか。
不動 純米原酒 古酒 2002年
17年熟成。それなりの熟香ながらかなりキレイ。
コシのある甘み、熟成によるカカオっぽさ。酸もしっかり。これだけの年数を経てもこのクオリティってことは多分氷温かそれに近い温度での熟成だと思うけどどうなんでしょう。
ドライ部門
今後個人的に注目のドライ系。
80年代の淡麗辛口ブームで流行った新潟酒をあらためて味わう機運が勝手に高まっています。
松の司 ABYSS
住吉酒販の限定販売。
純米吟醸と純米大吟醸のブレンド。
立ち香は爽やかでシャープなぶどう。含むと拍子抜けするくらい甘さがなく、あれ?と思っていると凝縮された酸と旨みがぐぐぐっと押し寄せてくる。
こりゃすごい。透明感と凝縮感が時間差で味わえるなんて。
酸は丸みを帯びてどちらかといえば乳酸系だが、どこかフルーティさも内包している。
ゆっくり時間をかけて嚥下することで旨みが広がる。
逆にすっと飲み込めば酸から旨みに差し掛かるあたりでアフターに移行するのでエレガントな印象に。
面白いなあ。こういうタイプの酒にはなかなか出会えない。
山城屋 DRY
立ち香は軽いイソアミル。甘みは弱く、その名の通りかなりドライ。
酸はそれほど感じず、スリムな旨みに繋がる。どこか軽い甘さを内包したような、質のいい旨み。
最後のほんのりした苦味がミネラルを感じさせる。
香りも弱く、味が少ないので料理に合わせやすいのは間違いないんだが、なぜか濃い目の料理(まあ限度はあるが)とも寄り添ってしまう。
最初は水みたいなんだけど旨みの部分で急に主張を始めるんだよね。酒単体だとおとなしいのに。これは不思議。
ジューシー部門
フレッシュな生酒はもうだいぶ飽きちゃったんですが、この手の酸がジューシーでコンパクトな旨みを持った酒は相変わらず好み。
金寶 純米酒
白麹&精米歩合80%。
なにこのスペック。こんなのあったんだ。
同じ白麹の「穏」ともちょっと違うんだよな。白麹らしく酸がすっきりしてて軽いんだけど、甘みは抑えてるので甘酸系にはならない。
どちらかといえば、すっきり系晩酌酒に近い方向性の落ち着きを感じさせる。やばい、うまいなこれ。
萩の露 特別純米 超辛口 無濾過生
右も左もわからない日本酒初心者の頃に飲んで、強烈なインパクトがあったわけでもないのに、なぜかずっと気になってて。
今回数年ぶりにようやく再飲する機会に出会えた。
今ならわかる、かつてこの酒に惹かれた理由が。それは酸の存在。
柑橘っぽい酸がしっかりあってパキっとしたテクスチャー。おかげで酒の輪郭もはっきりと見晴らしがよく、キレもすごい。
超辛口なんて書いてあると、おっさんくさい酒かな?と一瞬敬遠しそうになるが、騙されてはいけない。
これはめちゃめちゃモダンです。
にごり部門
にごりっていうとだいたい似通っちゃうんだけど、玉櫻は頭一つ抜けたクオリティでしたね。
玉櫻 純米 にごり酒
ほんのり花のような可憐な立ち香。やや乳酸っぽさもあるか。
やさしい甘みだがにごりなのでそれなりの粘度と強度はある。
含み香が上品で、ほどよく丸い酸と融合してフルーティに感じる。低アルなので飲み口は軽い。
半年寝てることも関係してるのか、まとまりがあってスムーズ、シルキー。
これまた上品な旨みが現れたと思ったら、すっとはかなく消えていく。これは素晴らしいぞ。
燗にすると、若干酸が抑えられてフルーティさは引っ込むが、スムーズさが半端ない。
燗酒部門(非熟成)
熟成系はほとんど燗で飲んでなんぼの酒なんですが、非熟成で素晴らしかった燗酒を。
白隠正宗 純米酒 生酛 誉富士
正直ね、今まで白隠正宗を特別に美味いと思ったことがなかったんですよ。静岡出身なのに。
良くも悪くも特徴がなくておとなしいんですよね。
でも、ペアリングを追求していると、こういう主張は弱いけど質のいい酒ってのが有用に感じるようになってくるんですよ。
フレンチ的なガチンコ対決ってのじゃなくて、すっと寄り添うような、いかにも日本的な合わせ方ができる。
最近はそっちの面白さにも気づいちゃって。
燗にしてゆるゆる飲むのに、ほんとちょうどいい。
長珍 純米 亀の尾
長珍ブラックと呼ばれる亀の尾使用の生詰め。
まずは常温、甘みはそこそこながらミネラリーで骨格がしっかりしている。酸もバランスが良い。
しかし、この酒が面白いのはここから。燗にすると驚くくらい柔らかく変化するのです。ミネラルの片鱗はあるが甘味から旨みへの流れが異常にスムーズに。
いや、この変わりっぷりはすごい。
濃醇部門
奥播磨 山廃純米 生 春待ちこがれて
低精白、精米歩合80%。奥播磨の生は初めて。
火入れの濃醇系燗酒のイメージが強いが果たしてどうか。
まず乳酸の立ち香、甘みは軽いがいつも奥播磨山廃と同じく、がっつりとした酸に乳酸の旨みがしっかりある。
やはり濃醇。最後の軽い苦味もいい。さすがに旨いわ。
鏡野 純米無濾過生原酒
高知県の株式会社アリサワの酒。この蔵は「文佳人」が有名かな。
一般米の岡山県産アケボノ使用。55%磨き。
立ち香はややカプロン。甘み強め、酸もしっかりだが太いタイプ。
しかし旨みには締まりがある。ごく軽い苦味の余韻がふわっと。
旨いわ。
なんでんの
日本酒文化祭でいただいたんですが、これはヤバイ。
剣菱が地元向けにリリースしている商品なので、神戸以外ではほとんど飲むことができないと思われます。
剣菱のように熟成感はなく、その点では飲みやすい。しかし、ただ飲みやすいだけの酒ではない。
そんじょそこらの田舎酒とは違う気位の高さみたいなものを感じるんだよなあ。
特A山田錦だからってそういう思い込みしてるだけなのかな。
とにかく、甘みと乳酸系の旨味のバランスが最高で美味すぎた。燗にできなかったことだけが悔やまれる。
まとめ
2019年の傾向
2019年も結局熟成酒ばっかりでしたね。年々こっちに傾倒していってます。
必然的にどれも入手が困難なので、読者様にとってはあまり参考にならないのが申し訳ない。
熟成酒は日本酒好きの中でも、まだまだマニアックな存在なのでもうちょっと広まってくれたら嬉しいんですが、恐らく難しいでしょう。
仕方ないのでせめてこのサイト上だけでも淡々と熟成酒の美味さを訴え続けていきます。
2020年の飲酒計画
2020年は新潟や宮城に代表される、いわゆる淡麗辛口タイプが多くなりそう。
単体で飲むと物足りなく感じるので、これまであまり好みじゃなかったんです。
しかし、昨年末ごろから食べ物と合わせるとその真価を発揮することにようやく気が付きはじめました。
これまでやってきたワイン的なペアリングのセオリーから外れていても不思議と合ってしまう。ここが面白いところでして。
日本酒ならでは、日本独自のペアリング手法を解き明かすカギがここに眠っているはず!それを理論として打ち立てるためには、まだまだ飲酒量が足りません。
今年もがんばってたくさん飲もう。
それではまた!