葉石かおり氏監修「日本酒のペアリングがよくわかる本」を読んで感じたことなどを、私の日本酒ペアリングの手法と比較したりしなかったりしながらレビューします。
日本酒ペアリングの本は少ない
以前、千葉麻里絵さんの「最先端の日本酒ペアリング」を勝手にレビューしましたが、日本酒ペアリング本としては双璧をなす「日本酒のペアリングがよくわかる本」を無視するわけにはいかないでしょう。
そもそも日本酒ペアリング自体がまだまだ未開発なジャンルで、それをメインテーマとして扱った著書は私の知る限り3冊しか存在しません。なんなら私が自分で書きたいくらいですが(出版社の方よろしくお願いします)、なかなかそうもいかないのでこんなブログとメルマガでお茶を濁している次第。
まあ、私のことは良いんですが、とにかく千葉さんの著作が出る前は、具体的なペアリングの理屈や実例を分かりやすく紹介した本としては、こちらが唯一無二だったのです。
「最先端の日本酒ペアリング」との違い
あちらはわりに専門的かつマニアックであるのに対し、こちらはもっと分かりやすく、より一般ユーザーを視野に入れた内容となっています。
「最先端~」はどちらかというと、千葉麻里絵という人間のペアリングに対する考え方や、彼女が日本酒とかかわって蓄積してきたノウハウにフォーカスが当てられています。
別に彼女のキャラクターを前面に押し出しているわけではないのですが(それだったらむしろ「日本酒に恋して」のほうが分かりやすく彼女を知ることができる)、紹介されている実例やノウハウを読み込んでいるだけで、彼女が何を思い、どんな姿勢で日本酒と対峙してきたかが滲み出てくるのです。
一方の「~よくわかる本」ですが、こちらは全く異なるスタンスで構成されています。日本酒初心者であっても充分に楽しめるよう、精米歩合や造りなどの基礎から紹介されているので日本酒の入門書としても機能するのが素晴らしい。
そんな知識はとっくに持ってるよ!という方でも、あくまでペアリングというテーマありきで、それに絡めたコンテンツになっているので煩わしさは感じないと思います。
Ponpairで紹介している方法論との違い
こちらの本の基本的なスタンスは日本酒を4タイプに分類して、それぞれに合う素材や料理を挙げていくもの。いわば酒ありきで、そこに合う料理を後から探していくスタイル。ここは完全に私の手法とは逆ですね。
私の手法は、以下記事を見ていただければわかる通り、飲食店などですでにそこに存在する料理に対して、どんな酒を合わせるべきか紐解くやり方をとっています
どちらが正解ということではないんですが、酒からのスタートだと店の経営者としてはちょっと使いづらいかもしれませんね。酒は無限に近い種類がありますが、店で出せる料理には限りがありますから、どうしても料理ありきでペアリングを考える方向性にならざるを得ません。
その他見どころ
個人的に楽しいのはそれぞれのタイプの酒に合わせた料理の写真とレシピ。「手羽先の甘辛煮」「白菜と油揚げの煮浸し」といったオーソドックスなものから「あさりとチーズのぬた」「桃の酒蒸し」「キムチドリア」といった一捻りある曲者まで豊富に紹介されています。
先ほどから書いているように、基本的には初心者にもわかりやすくまとめてあるので、あまり突っ込んだ理論や方法論については書かれていません。
ただ、後半に載っている日本酒bar「酒坊主」店主の前田さんのインタビューは、プロとしてもかなり参考になるんじゃないかと。彼の作る「揚げゴーヤとアボカド、タコの梅おろし」とか「イチゴと黒豆のフムス」なんていう無国籍な料理も面白いですねえ。まだ伺ったことがないので、そのうち行きたいなあ。
まとめ
この本で最も特筆すべきは構成と編集の素晴らしさですね。本当に分かりやすいし、読んでて楽しい。もちろん、監修の葉石さんの力なくしては存在しえない本なんですが、出版業界に身を置いていた人間としては、どうしても編集の上手さに目が行ってしまうんですよね。
とにかく、日本酒ペアリングを学びたいと本気で思うなら読んで損はないと思います。全てのページとは言いませんが、どこかしらで得るものはあるはずです。
それではまた!