前回の記事でお燗に向く酒の選び方は分かったけど、実際のところどんな銘柄を買ったらいいのよ!理屈はいいから実例を示せ!というせっかちなあなた、お待たせしました。
お燗完全マニュアルの第三回はオススメ銘柄30選をご紹介。
これからご紹介する銘柄であればスペック問わずほぼ燗上がりすると思っていいでしょう。選考基準は、特定のスペックだけでなくその銘柄の酒全てが燗に特化しているもの、という観点になっています。
なので、○○という銘柄の五百万石使った山廃純米は燗上がりするけど、山田錦の純米吟醸はイマイチだなあ、みたいのははずしてます。(というか、そういうのも選んでたらキリがないので…)
また、自分でスペック違い含めて数種類飲んで、ちゃんと味を確認したものしか載せていません。そのへんは誠実に行きたいので。
では、だいたい北のほうからご紹介。
燗上がり銘柄の紹介
田从(秋田)
俺的燗上がり銘柄の最北端は秋田の田从(たびと)から。 ここの酒は何といっても熟成ありき。そして意外なことに、こんなハードコアな酒を女性杜氏が作ってるというのも素敵。
会津娘(福島)
名前の通り福島産の銘酒。燗に特化した造りというより、良い意味で朴訥で田舎臭いんですが、決して古臭くはないのです。質の高さは間違いない、素晴らしい酒です。
群馬泉(群馬)
一気に関東までワープ。生酛・山廃にこだわった蔵で、比較的軽い淡緑なんかは都内のお店でたまに目にします。これも燗上がりしますが、ここの真骨頂はもっとどっしりした純米、または本醸造。
神亀(埼玉)
全国でいち早く全量純米という極端な方向に舵を切ったエポックメイキングなすごい蔵。燗酒系純米狂いの人たちにとっては神のような存在。山田錦にこだわった「ひこ孫」や有機栽培五百万石を使用した「真穂人(まほと)」も素晴らしい。
丹沢山(神奈川)
神奈川を代表する燗上がり銘柄。派手さは抑えた柔らかくふくよかな酒質が特徴。まずは「麗峰」から。冷酒に的を絞った「隆」もおすすめ。
なお、下記記事では「凛峰」を紹介しています。
白隠正宗(静岡)
静岡といえばメロン的吟醸香をもったフルーティなお酒のイメージが強いですが、ここはちょっと異端。あくまで食中酒にこだわり、どっしりというよりはいくらでもすいすい飲めるお酒が多いです。
杉錦(静岡)
もうひとつ、静岡の異端蔵を。ここは良い意味で極端ですね。明治時代の造りを再現した「生酛純米八十八(やそはち)」とか菩提酛とか、結構チャレンジング。大吟醸含めて、ほぼすべて燗上がりします。
義侠(愛知)
全量純米酒。どっしりしたイメージが強いですが、純米大吟醸で感嘆することが意外に多い。寝かせてナンボ。
酒屋八兵衛(三重)
キングオブまろやか。山廃は重くて飲みにくい、そんな古い概念を取り払ってくれます。優しい甘みと旨みがスムーズに流れ込む、最高の燗酒。かなり特徴的な味わいなので、ペアリングにおいても重宝する銘柄です。
るみ子の酒(三重)
爆発活性にごりが変に有名になってしまったので、本来の燗酒としてのポテンシャルを知っている身としては微妙な気持ちですが、それでもやっぱりこの蔵の酒は素晴らしい。別銘柄の「妙の華」「英(はなぶさ)」「RIE STYLE」も同じく燗上がりします。
長龍(奈良)
「ちょうりゅう」ではなく「ちょうりょう」です。吉野杉の樽酒がよく知られていますが、雄町を使った「ふた穂」や、燗向けではないけど「 四季咲 」シリーズもおすすめ。
睡龍(奈良)
ここの特徴はなんといっても豪快なキレ。フラッグシップである生酛純米酒は、2年ほど熟成させてから出荷されます。夏の限定酒として発売される「涼」ですら完全に燗向け。同蔵でにごりの「生酛のどぶ」もペアリングの汎用性が異常に高い。
下記記事では「生酛のどぶ」を紹介しています。
京の春(京都)
もしかしたら、赤米を使った「伊根満開」のほうが知られているかもしれません。女性杜氏による酸強めのクラシックな造りは間違いなく燗上がりします。
不老泉(滋賀)
結構いろいろなバリエーションが出ていて、生酒も豊富なんですが、これが熟成させると面白いんですよ。当然、生であっても燗映えしますので、生酒の燗を試すならここの酒から始めてはいかがでしょう。
玉川(京都)
イギリス人のフィリップ・ハーパー氏が杜氏を務める京都の老舗、木下酒造。夏酒の「Ice Breaker」なんかはよく知られる酒ですが、これですら燗をつけたほうが美味いと思いますよ。(イットキー、越後武士、玉風味などで知られる玉川酒造は新潟の別の蔵ですのでお間違えのないよう。ここの酒も素晴らしいですけどね。)
秋鹿(大阪)
個人的には神亀と並ぶキングオブ燗酒銘柄の一つ。 熟成の「奥鹿」ともどもドメーヌにこだわり酸を強めに押し出した強い酒質は正直飲む人を選びますが、一度ハマったら絶対に抜けられない強度を持っています。
奥播磨(兵庫)
肉に合わせる時のファーストチョイスはいつもこの奥播磨。ゴツくてしっかり燗にすると旨みが花開きます。熟成酒専用銘柄の「白影泉」もヤバいです。
日置桜(鳥取)
さあ、ここからは山陰ラッシュです。まずは代表的な銘柄、日置桜。古臭くてどっしりしてて飲みにくい。でも燗をつけたら旨みの洪水。ああもう最高ですね。比較的若い「青冴え」も面白いですよ。
辨天娘(鳥取)
こちらもクラシカルな味わいが魅力ですが、完全に熟成を前提に作っているので少なくとも上槽から2年以内の酒は飲むべきではないです。最低でも3年は寝かさないと硬くて渋くて。(それを分かったうえで比べるなら若いのも面白いんですが)。しかし、酒質の強さは特筆もので、開栓してから常温放置で3年くらいは余裕で持ちますので飲食店にとっては強い味方になるかも。
諏訪泉(鳥取)
別銘柄の「満天星」や「田中農場」含めて、鳥取らしい芯の強さと熟成による柔らかさを兼ね備えています。大吟醸の「鵬」をまだ飲んでないので、これは近いうちにやらねば…。
梅津の生酛(鳥取)
ゴツい、ゴツすぎる…。今まで飲んだ中で一番クセがあって骨太な銘柄かも。ほとんどは加水燗でちょうど飲みやすくなります。同蔵の別銘柄、冨玲とあわせて男らしい酒をお求めの際は是非。
山陰東郷(鳥取)
邪道かもしれませんが、極甘口の玉栄を使った造りからこの銘柄を知りました。そこから、レギュラー酒、大吟醸と飲み進めましたが、いやはや、どれもこれも燗上がりする最高の酒質。もちろん、甘口の玉栄も含めてです。
十旭日(島根)
もともと硬めでミネラリーな酒質のものが多かった印象ですが、最近は結構いろいろなラインナップを出してて味のバリエーションも広がってきている印象。でも、やっぱり芯にあるのは熟成&燗でしょう。
扶桑鶴(島根)
ここも多分に漏れず熟成してナンボのお酒を造る蔵。派手さは抑えて米の旨みを最大限に引き出す造り。全般的にドライですっきりした印象。
天穏(島根)
とにかくバランスが素晴らしい。熟成耐性もありつつ、柔らかくて骨太すぎない酒質は日本酒を飲み慣れない女性にもオススメできます。
玉櫻(島根)
正直言って、すごく地味です。だけど飽きずに飲めてしまう。とろとろの純米にごりが最高にバランス良くて大好きです。
開春(島根)
乳酸たっぷりの純米生酛西田にやられて以来のファン。その他も精米歩合90%の「イ宛(おん)」や同じく90%で江戸時代の造りを再現した日本酒度-80の変態酒「寛文の雫」など面白い試みも。
竹鶴(広島)
マッサンの生家でお馴染、竹鶴酒造ですが、日本酒好きであれば、ここの酒の素晴らしさは周知の事実。重厚な味わいで多くの洋食店でも採用されています。
悦凱陣(香川)
分かってる酒屋・居酒屋はこの銘柄であれば生酒であっても常温保管です。とにかく酒質が強く、ヘタれない。しっかりした味わいで四国を代表する銘酒です。
旭菊(福岡)
派手さは抑えて、母親のような包容力のあるほっこりした味わいが特徴。特に「大地」の熟成酒はマイフェイバリットです。
まとめ
いやはや、圧倒的に鳥取と島根が多いですね。ここに載っていない、まだしっかり飲んで検証していないものの明らかに燗映えするであろう銘柄もたくさんあります。(千代むすびとかいずみ橋とか竹泉とか天遊琳とか鷹勇とか…)。 そこはひとえに勉強不足ということで何とぞご勘弁を。
まあ、とりあえず鳥取だったら全部間違いないとは思います。
ちなみに、ここで紹介した銘柄をお買い求めの際は、どれであってもなるべく2-3年熟成したものをオススメします。お店に行って、棚には並んでなくても古いのありますか?と聞くと奥から出してくれることもありますよ。
さて、次回はいよいよ燗つけのテクニックについて解説していきます。お楽しみに。