衝撃的なまでのどろどろな液体、篠峯のどぶろく。今回はいつもとは違ってまず酒ありきで、それに合う料理を導き出していきます。
篠峯 どぶろく
まずは酒の紹介から。
奈良の千代酒造が醸す人気シリーズ、篠峯です。ミネラル由来のカチッとした骨格や、ややドライで締まりのある味わいの酒が多く、そういった部分に惹かれるコアなファンは多いですね。篠峯が好きな人は本当に日本酒が好きな人だと思います。今回はそんな中でも特異な立ち位置のどぶろく 生を。
なぜこれを選んだのか。単純においしいってのもあるんですが、個性が強い分、ペアリングを考えやすいことも大きいですね。
酒の分析
杯に注ぐと、とにかくどろどろでインパクト大。米粒が残ってる!味わい的には甘味もそこそこあるんですが、どちらかといえばリンゴ酸が特徴的で非常にジューシー。活性なので、口の中で弾けるしゅわしゅわのガス感も面白い。
五味チャートは甘3、酸4、旨4、苦1としました。
合わせる料理を考える
さて、この個性の強い酒に何を合わせようか。これまでのペアリング実践でも濁りは頻出していますが、なぜならクリーム系の料理とテクスチャーを合わせやすいんです。やや安直なのは否めませんが、とりあえずは素直にクリーム系のもので考えていきましょう。
次に着目すべきは、含んだ際のしゅわしゅわした発泡感。しゅわしゅわにはパリパリの衣を持った揚げ物を合わせる、これがセオリー。
クリーム、揚げ物…ここまで来たら思い浮かぶものは一つ。そう、クリームコロッケ(クロケット)です。
クリームコロッケ
コロッケのルーツ
一般的なジャガイモで作るコロッケは本格的な西洋料理というより、日本で独自の発展を遂げた「洋食」の定番メニューの一つというイメージが強いですよね。
クリームコロッケはその一般的なコロッケから派生したと思ってません?
実は違うんです。 一般的なコロッケは明治期に日本に入ってきたフレンチのクロケットがルーツなんですが、それは魚介や肉とベシャメルソース(ホワイトソース)を和えて形成したものに衣をつけて油で揚げる料理だったのです。そう、そのまんまクリームコロッケ。
つまり、ジャガイモを使ったお馴染のコロッケはクリームコロッケから派生したんですねえ。
ただ、クロケットが日本に入ってきた当初は乳製品にまだ馴染みがなかったこともあり、まずはクロケットの亜種であるジャガイモのコロッケが世に出て、後に遅れて本家のクロケット(=クリームコロッケ)が作られ始めたとも言われています。
とりあえずペアリングには何の関係もないですが、一応話のネタとして…興味ある方は下記をご参照ください。結構面白いです。
(参考:JBPRESS | コロッケはじゃがいもが先か、クリームが先か)
クリームコロッケの分析
材料
材料はベシャメルソース(バター・小麦粉・牛乳)、タマネギあたりが定番でしょうか。調味料は塩・コショウ、風味づけに白ワイン。基本、ハーブなどは使用しません。
そして、今回はトマトソースを上にかけています。こちらはトマトピューレ、ケチャップ、ウスターソース少々、タマネギ、ニンニク等に加えてローリエ、オレガノなどを少々。
香りの分析
まずトマトソースから若干のハーブ香とケチャップの酸臭。クリームコロッケ自体からは衣の香ばしい香りと油のにおい。口に入れると、ミルクとバターの風味を感じられます。
いずれもそこまで特徴はなく、強く香るわけでもないので、香りをキーにして日本酒を探すのは難しいかもしれません。まあ、今回は探すまでもなくどぶろくに合わせると決まっているんですが。
五味の分析
五味は塩2、甘1、酸3.5、旨4、苦0。このくらいでしょうか。乳製品独特の風味はありますが比較的優しい味わいですので日本酒とは喧嘩しないはず。ちなみに酸が高めですが、これはトマトソースのもの。
どぶろくと合わせるとこんな感じになります。あー、どうかな、一応バランスはとれてるけど、もしかしたら甘みが邪魔かも。
ま、とりあえずは合わせてみましょう。
実食!
衣の香ばしい香りが食欲をそそります。クリームコロッケをナイフで一口大に切り分けたあと、ソースを絡ませ、若干冷ましてから口に放り込む。それでもまだ熱い。はふはふしながらも口の中はソースの酸味と旨味、それを包み込むようなとろりとしたクリームの優しさとコクであふれる。
ここで少量のどぶろくを。クリームでもったりしている口の中に、同じようにもたっとした酒が何の違和感もなく混ざり合います。間髪入れずにしゅわしゅわとした発泡感が舌を刺激。やはり衣のサクサクとよくマッチします。
ここまでで、2つのテクスチャーの相性は想定通り、非常に良い感じ。
味わいはどうか。甘みが懸念されたけど、クリームと上手く馴染んで違和感なし。むしろ特徴的なのは酸。冷旨酸系のリンゴ酸なので意外にシャープな感じなんですね。そこがクリームのまったり感とちぐはぐになる。
ただ、ソースに使ったケチャップとトマトが同じく冷旨酸系のクエン酸を多く含むので、ここが触媒になって何とか繋がりました。
結果的には今回も良いペアリングだったと思います。ごちそうさまでした。
まとめ
今回は総合的に複数の要素でマッチングできました。特にしゅわしゅわ&とろとろの二つのテクスチャーを同時にペアリングできることはあまりないので、面白い結果を得られたんじゃないかと。
思いのほかどぶろくの酸が強かったので、少し多めにソースを付けるとちょうどいい感じになりました。こういった食べる側による微調整もお店から上手くサジェストできると、より高度なペアリングを楽しむことができますね。
ちなみに、余談ですが、このどぶろくを購入した地酒屋こだまさんに教えてもらった邪道な飲み方。なんと、100%オレンジジュースで割るというもの(笑)
しかし騙されたと思ってやってみたらこれが合うのでびっくり!考えてみれば、味の構成やテクスチャーが非常に似ているので、当然と言えば当然なんですよね。良い勉強になりました。
なお、以下ではどぶろく全般に対してのペアリングを解説していますので、こちらも参考にしてみてください。
それではまた!