フランスのアップルパイであるショーソン・オ・ポムと日本酒を合わせます。スイーツと日本酒とかどうかしてるって思いますか?私もそう思います。
ショーソン・オ・ポムとは
ケーキ屋もしくはパン屋によく通う方は見覚えがあると思いますが、要するにフランスのアップルパイです。一般的なアップルパイはオープン型でホールを切り分けて食べますが、ショーソン・オ・ポムは一つ一つがパイ包みになっています。大きな違いといったらこれくらいのもんかな。パイの比率が大きいので、その意味で若干の味わいの差はあります。
ちなみに「ショーソン」とはフランス語でスリッパを意味します。ポムはリンゴ。スリッパの形をしたアップルパイということです。食い物にスリッパとか、ちょっと不潔な感じがして嫌ですが。
ショーソン・オ・ポムの分析
お菓子としては、いわゆる生ケーキなどに比べれば甘さ控えめでパンに近いかもしれません。
パイなので当然バターの風味は強くあり、そこにリンゴの酸味が絡んで、あのえも言われぬ味わいを生み出しています。
フランス菓子はタルトでもパイでも焼き菓子でも同じですが、生地をしっかりと焦げる直前まで焼きこんでるほうが「らしさ」が出て確実に美味しいですね。
五味をチャートにすると、塩0.5、甘3、酸3.5、旨3、苦0.5くらいでしょうか。
合わせる日本酒を考える
まずポイントになるのは甘味ですね。
日本酒を甘いものと合わせると、通常は甘みが引っ込んで酒に物足りなさを感じることが多いんです。解決策としては、合わせる料理と同等以上の甘味を持つ酒を選ぶか、甘みに主眼を置かないどっしりした酒を選ぶか、このどちらかしかありません。
後者が分かりづらいのでもう少し説明しますと、いわゆる辛口で旨みがしっかりしていてボディが太い、燗に向くようなお酒のことです。
もうひとつポイントになるのは五味チャートには表れない焦げた香り。焦げといえば熟成酒または古酒。古酒に含まれるソトロンという物質から焦げた風味を感じるのです。チョコっぽいという人もいますね。
ここまでで大体絞れました。ずばり古酒です。古酒にもいろいろありますが、とりあえず今回はあまり甘くないやつを選んでみましょう。
なお、レシピにもよりますが、シナモンを添加してる場合もあります。古酒にはシナモンの香りもありますのでもう言うことなしですね。
龍力 熟成古酒 vintage1999
そんなこんなで選んだのは姫路の銘醸「龍力」20年古酒です。使用米は雄町で
口当たりは柔らかく、甘さは控えめ。ほどほどの酸味とふわっと広がる旨味。古酒独特のクセは比較的弱く、味わいも濃すぎないのがポイント。
五味チャートは甘2、酸2.5、旨4、苦0.5。
ショーソン・オ・ポムと合わせてみるとこうなります。
あらら、これだけ見るとバチっと同調してるとは言い難いですが大丈夫かな…。ま、ダメもとで試すだけ試してみましょう。
実食!
ショーソン・オ・ポムの適度に焦げた香ばしさ。ガブっと食いつくとさっくりしたパイ生地がほろほろとこぼれ落ちます。ほどなくリンゴのコンポートの甘いと酸味がやってきたあと、バターのコクにふんわりと包み込まれる。
ここで龍力の古酒を冷やでチビリ。いきなりリンゴの酸と日本酒の酸がコネクトしてそのまま旨みの海に投げ出される。この食べ物と酒がシームレスにつながる感じ、最高です。予想通り、パイの焦げた風味と古酒独特の焦げ感も何の違和感もなく同調。大成功ですな。
酸は明らかに酒のほうが弱いんですが、なぜここまで同調するのか。恐らく酸の質が似ているんだと思いますが、詳しいことは分かりません。
なお、燗にすると旨味に押されて酸が引っ込んでしまいます。これはこれで旨いんだけど、今回のペアリングには合わないので常温か冷酒を推奨します。
まとめ
正直、五味チャート的には全然なのでどうなることかと思いましたが、結果的にはかなり素晴らしいペアリングとなりました。
これがもうちょっとボテっとした重い古酒だったら厳しかったかも。リンゴのコンポート自体は純米燗酒系であれば幅広く合わせられそうですので、別の酒でも試してみたいところです。
なお、普通のアップルパイでも問題なく合わせられると思いますが、焼き込みが弱いものは古酒の焦げ感とフィットしないのであまりオススメしません。その場合は、トースターでちょっと焼くといいですよ。
それではまた!