今回の題材はエビのビスク。濃厚なエビの風味にもっともマッチするのはどんな日本酒なのか。なお、今回はスープストック東京の「オマール海老のビスク」を使って実践します。
ビスクとは
ビスクとはフランス発祥のスープで、エビやカニなどの甲殻類をすり潰して裏ごししたクーリと呼ばれるソースをベースにして、トマトや香味野菜、生クリームを加えたものになります。
語源はフランスのビスケー湾に由来するとも言われていますが諸説あるようなので、ここでは深く追求しません。
特徴は何と言ってもエビの濃厚な風味。殻も頭も一緒にすり潰すので、人によっては磯臭みを感じることもあるでしょう。そのくらい、わかりやすくエビが主張する料理です。
では材料から紐解いていきます。
分析
材料
ざっくり基本的なところでトマト・エビ・生クリーム・白ワイン(スープストックではブランデーを使用)、香味野菜であるタマネギ・セロリ・ニンジン・ニンニク、だいたいこんなところでしょうか。
先ほども書いたように、エビは殻も頭も使いますので有頭エビを用意します。
調理法は他サイトに詳しいのでそちらをご参照ください。
香り
香りは言うまでもなくエビから放たれる磯の香りがメイン。あとはトマトの香りですかね。
日本酒といえば魚!のイメージが根強いので意外に思う方もいらっしゃると思いますが、案外磯の香りって日本酒の中に共通するものがなくてですね、少なくとも香りを同調させて高めあうパターンは使いづらいんです。
どちらかといえば、臭み消しとして日本酒を使って、香りの奥にある風味を引き出すやり方のほうが魚介系には一般的です。
というわけで、今回に関しては香りをキーにした日本酒を探すのはやや難しそう。
五味
塩2 甘1 酸3 旨4 苦1くらいでしょうか。味のポイントはトマトの酸味とエビの旨み、そして生クリームの脂肪感ですね。
テクスチャー
テクスチャーは生クリームが入っていることもあってまったり滑らか。ここが今回一番のポイントになります。
合わせるべき日本酒を考える
以上の分析結果から、どんな日本酒を合わせるべきか導き出していきましょう。
着目すべきは、やはりテクスチャー。生クリームとトマト、そして裏ごししたエビを混ぜれば当然もったりと重いものになります。これを生かすのであれば、どうしても濁りが第一の選択肢として挙がります。
それから五味のバランス。酸味と旨味の値からしても、ある程度濃醇なタイプでないと負けてしまいます。
そんなわけで選んだのは「生酛のどぶ」。
生酛のどぶ
奈良の久保本家酒造による燗向けの濁り酒です。 熟成させてもOK。
実はペアリング実践で登場するのはチーズリゾットに続いて二回目。
いやー、正直この酒ってめちゃめちゃ汎用性が高くてですね。特に乳製品系のもったりした料理にはかなりの確率でマッチするんですよ。
味わいとしては甘味が弱くドライで、ボディがしっかりしているので、特に洋食との相性が抜群なんです。
ですから、今後もちょいちょい登場すると思いますが、このワンパターン野郎め!と罵ったりしないでください。メンタル弱いので。
真面目な話、1種類の酒でこれだけいろいろな料理に合わせられるんだよ!という提示をするのも方向性としてアリかなと。
常温放置が必須
ここは好みの問題もあるし、蔵元の意向とは異なってくる可能性もありますが、開けたてはちょっと固くて酸が前に出てくるんです。なので、クリーミーさと酸と旨味の調和を促すために、一度開栓して常温で1週間ほど放置すると、理想的な味わいに。
五味バランス
五味バランスは甘1 酸2.5 旨4 苦1.5になります。なお、開けたての場合は、若干酸味と苦味の数値が高くなります。
常温放置したどぶをビスクと合わせてみても、チャートはほぼ重なっているので同調性はかなり期待できます。
実食!
目をつむっていても料理が近づいてくるのがわかるくらい強いエビの香り。ひと匙すくって味わうと、クリーミーな口当たり、強いエビの旨み。そこですかさずトマトの酸が引き締めます。このトマトがないと料理として成立しないですね。
スープの旨味が残るタイミングで、ぬる燗にしたどぶを一口。口内でテクスチャが同調。濃度がぴったりなので、まるで続けて別のスープを飲んでいるかのよう。
この酒は、単体だと後口でやや酸と苦味、アルコールっぽさが分離する印象がありますが、燗にしてスープと合わせると、気になる部分もずいぶんと軽減されて一体感が増します。
まとめ
今回も大成功。この辺はもはやベーシックともいえる取り合わせなので、あえて全然合いそうもない酒を持ってこようとも思ったのですが、それはそれでなかなか難しく。性格上、ついつい変わったことをやろうとしてしまうんですが、一般レベルからしたら今回のペアリングでも充分驚きを与えられるんですよね。
ちなみに、この生酛のどぶですが、クリーム系以外にもどういうわけかトマトベースの料理とやたら相性がいいんです。すなわち、イタリアンには最高のパートナーということで、そのうちペンネ・アラビアータとかアクアパッツァ、カッチャトーラあたりに合わせてみようと思います。
それではまた!