さて、本日はアボカドです。これが日本酒と合うったらないんです。
居酒屋のメニューでもしばしば目にしますし、カリフォルニアロールなど、和との融合も積極的に行われているのでそれほど違和感はないかもしれないですね。
アボカドの特徴
何と言っても「森のバター」と称されるほどの脂肪分の多さと、まろやかな口当たり。
そして、独特の青臭さ。これが苦手という方もいると思いますが、適度に熟成が進むと青臭さも弱くなります。
日本酒選びの基本的な考え方
どっしりした酒がファーストチョイス
ぶっちゃけ、なんでも合います。合いますが、一定の傾向はあります。
やはり、脂肪分による重さがあるので、それに合わせてある程度どっしりした味わいの酒のほうが均衡をとりやすいですね。
大吟醸よりは純米酒、五百万石よりは山田錦、雄町って感じで。
フルーティな酒でもOK
基本的には、あまり香り高いタイプよりは落ち着いた火入れ酒のほうが難易度は低いです。
とはいえ、生酒やフルーティな日本酒が全くダメということもなく、むしろアボカドの青臭さは日本酒のフルーティな香りと近しい関係にあります。
ただ、このタイプの多くは味に幅がないので、アボカドの強度に押されちゃうんですね。
ですから、そこの部分を少し工夫すれば相性を近づけることが可能です。(実例の生ハム+レモンを参照)
そんなわけで、かなり幅広い選択肢があるということはお分かりいただけたかと。
相性の良い調味料
どんな調味料でいただくか、これが合わせる日本酒に最も影響します。
基本的には塩味および酸味を足すのがベーシックな考え方。
塩味
塩
そのまんまですね。塩。
アボカド+塩というシンプルな組み合わせで食べることはあまりなく、どちらかといえばその他の調味料と合わせて加えることで骨格をはっきりさせるような役割です。
生ハム
塩味とともに肉の旨味も足されるので、非常に相性はいいです。
生ハムにアボカドのかけらを包んだだけで、一つの料理として成立します。
わさび醤油
和風にしたい場合の定番。
旨味が強いので味に厚みがあるアボカドとよく馴染みます。
醤油だけでも美味しいですが、わさびを加えることで青臭さを緩和する効果があります。
酸味
クリームチーズ
酸味と厚みが加わり、味わいがより立体的に。生ハムと合わせたり塩・コショウをかけて。
レモン
酸味の他に柑橘の爽やかな香りも加わるため、大吟醸など香りの強い酒でも合わせやすくなります。
マヨネーズ
言わずと知れた卵と酢からできる調味料。
油分とコクがあるので、アボカドとの馴染みはすこぶる良い上に、他の調味料との触媒となって、全体のまとまりが良くなります。
バルサミコ酢
少し煮詰めて酸味をまろやかにして使いましょう。
凝縮した旨味が豊かな味わいを演出します。
塩味と酸味を組み合わせる
お好みで塩味だけでも、酸味だけでもいいですが、適宜組み合わせることでより立体的でメリハリのある味わいになります。
例えば、生ハムとバルサミコ酢とか、わさび醤油とクリームチーズとか、塩とレモンとクリームチーズとか。
ただし、生ハムまたはバルサミコ酢とわさびは合わないので、この組み合わせは避けたほうが無難です。
実例と解説
ここからは、実際に調味料を組み合わせた例を見て、それぞれ解説していきます。
合わせる銘柄は全て神奈川県の銘酒、川西屋酒造の「丹沢山(丹澤山)」「隆」で絞ってみました。
深い理由はありません。単に私が好きだからです!
わさび醤油
まずはベーシックなわさび醤油のみで食してみましょう。
さすがにアボカドだけでは味気ないですよね。
ここに醤油による適度な塩気と旨味を加えることで、アボカドのポテンシャルを引き出すことができます。
隆 緑 純米吟醸
合わせる酒は比較的軽めな「隆」が無難なところ。
ちなみにこれは1年熟成ですが、熟成感はなく非常にバランスがいい酒です。
ここで、両者を合わせた五味チャートを見てみましょう。
五味チャートと解説
注目すべきはフード側に酸が全くないこと。
日本酒のほうで酸を補完するという考え方もありますが、そのためには下地となる酸が少量でも欲しいんですね。
それがないと、酒の酸だけがどうにも浮いてしまい、上手に手を繋いでくれないのです。
悪く言うならば、チャート上では塩・甘・酸・旨にピークが分散してしまい、ちょっと方向性がぼやけてしまっています。
ただ、それはそれとして調和のとれた味わいであるとも言えるわけで、そのあたりをどう捉えるかは食べる人の好みにもよるのかなと。
クリームチーズ+生ハム
次は個人的に最も好きな組み合わせ。
クリームチーズと生ハムだけでも充分つまみになりますが、アボカドが加わることでボリュームが出て最強になります。
丹澤山 PINK 純米原酒 火入れ 阿波山田錦 2016BY
上品かつしっかりした甘味が素晴らしい一本。
この甘味が最大のポイントで、脂肪分と抜群の相性なんです。
燗にすればより甘みが引き立ち、滑らかでスムーズな口当たりに。
五味チャートと解説
ピーク値が分散しているのは先ほどと同じですが、酸が加わって重なる部分が増えたので、より融合性は高くなります。
これがもし、甘味が弱くてドライな酒だったらどうでしょう?
ピークが一つ減るんだからチャート上ではよさげな気もしますが、アボカドの場合、ここには表れていない脂肪分がペアリングを左右する大きな要素になってきます。
先にも書いたように、脂肪と甘味は最強の組み合わせ。
豚の角煮とか、すき焼き、カツ丼などを想像してもらえれば理解しやすいと思います。(このあたり詳しくは下記を見てください。)
なので、この場合はやはり甘みのやや強い酒が正解ということになります。
ちなみに、これが今回試した中では最も美味しいペアリングでした。
生ハム+レモン
レモンを多めにかけて酸味をプラスすることで、脂っこさが緩和され全体の味わいが軽やかになります。
塩味は塩をかけるだけでもいいですが、ここはより旨みの強い生ハムを使いましょう。
丹澤山 生酛 雄町 無濾過生原酒
この蔵としては今期初めて生酛にチャレンジということで、ファンからは注目が集まっています。
フレッシュでグレープフルーツを思わせる酸のニュアンスが、レモンと完全に同期します。
五味チャートの分析
甘味と旨味が若干引っ込んだことで、塩味と酸味によりフォーカスが集まるようになりました。
また、レモン(酸)の作用で軽くなっていますので、このようにシャープなボディの酒でもぐっと相性が近づきます。
さらにチャートには表れていない青臭い香りと、柑橘系の立ち香が同調するのも見逃せないポイントです。
塩・コショウ+マヨネーズ
そのまま食べても美味しいですが、オーブントースターでマヨネーズに焼き目がつくくらいまで加熱するのもおすすめ。
アボカドがほっくり、とろっとしてまた違った美味しさが味わえます。
丹沢山 純米酒 吟醸造り
ここに合わせるは、丹沢山のレギュラー酒。
純米と謳っていますが、実質的には純米吟醸の造りで重すぎない。55%磨きだしね。
冷酒・常温でもいけますが、ここは焼きアボカドに合わせてやっぱり燗でしょう。
五味チャートと解説
きれいに重なってますね。
塩やマヨネーズの量によってチャートは多少変わってきますが、基本はマヨネーズを多めにして味の基盤を作ります。アボカドの断面を覆うくらいかな。
ここに塩少々をかけて輪郭を整えるイメージです。
マヨネーズの脂肪分が、浮いてしまいがちなアボカドの脂肪分と繋がることで、酒との接点を作りやすくします。
また、マヨネーズは酸の存在も大きく、このおかげで日本酒と馴染みが良くなります。
この味付けの場合は、フードのほうが派手さを抑えてうまくまとまっているので、酒も同じように地味で中庸かつ穏やかなレギュラー酒のほうが、より合わせやすいのは確かですね。
まとめ
とにかく、ペアリングで着目すべきはフード側のボリューム(強度)と酸。
酒のボリュームを合わせることは言わずもがなですが、酸の強さを合わせるとさらに相性が良くなります。
ここまで4例紹介しましたが、調味料の組み合わせ次第で幅はいくらでも広がります。
特にマヨネーズはバラバラだった味をぐっとまとめてくれるので使い勝手が非常に良いです。
今回は取り上げてませんが、わさび醤油+マヨなんかめちゃめちゃお手軽で美味ですよ。
ちなみに丹澤山を使ったペアリングはこれまでもいくつか紹介していますので、こちらもぜひ。
それではまた!