日本酒ペアリング講座

日本酒ペアリングのコツ[1]~基礎知識編(同調・ギャップ・時間軸の変化、味覚相互作用)

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日本酒ペアリング講座の第一回は、基礎知識というか予備知識というか。基本的な方法論について書いていますので、まずはそこから。

同調とギャップ

ペアリングには「同調」と「ギャップ(もしくはコントラスト)」の考え方があります。基本中の基本ですので、ここを理解していないと先に話が進められません。

同調

「同調」はわかりやすいかな。

香りや味の似たもの同士を合わせて料理と酒がお互いを殺さず混然一体となって美味しさを生み出す効果です。

ある物質に対して、それに似た物質同士はお互いをよく溶かすという化学の基本原則に沿ったものになります。

コツはとにかく両者の接点となり得る共通した要素を見つけること、そして味や香りのボリュームを揃えることです。

例えばフルーティですっきりした純米大吟醸にフレンチドレッシングとグレープフルーツを少々あしらったサラダを合わせてみた様子を無駄に小説風に描写してみましょう。

まずはサラダをひと口。

咀嚼しはじめると同時にドレッシングの爽快な酸が舌を刺激し、嚥下した喉の奥から鼻腔にかけてグレープフルーツの香りが心地よく抜けていく。後口には軽い酸味と野菜によるわずかな苦み、そして青臭さが残る。

間を開けずに純米大吟醸を少量流し込んでみよう。

吟醸酒らしい華やかでフルーティーな立ち香がグレープフルーツの香りや野菜の爽やかな青臭みと違和感なく同調し、口に含んだ直後から感じる上品な甘さによって野菜の苦みが緩和される。

ほどなくして柑橘を思わせる酸が姿を現したかと思うと、オリーブオイルの油脂を流しながらグレープフルーツの余韻と絡み合い、喉の奥へと消えていった。

いかがでしょう。バカみたいですね。要するにフルーツ系の香りとさわやかな酸が共通した要素として同調しているってことがわかれば結構です。

ギャップ

対して「ギャップ」はやや難しくなります。あえて異質の味や香りを持ったもの同士をペアリングする方法です。その中で得られる効果は「補完」であったり「抑制」であったり「相乗効果」であったりといろいろですが、とにかくポイントは「異質なものを合わせる」という点になります。

上の例でいうと、野菜の苦みと酒の甘味が良い相性で「抑制効果」として相互に絡み合っています。

他にもゴルゴンゾーラチーズにハチミツとか、バニラアイスにしょうゆを垂らすとか、こういった手法はギャップの考え方を基にしています。

ギャップといっても程度は様々です。やりすぎるとお客さんも引いてしまいますが、ほどよい意外性は最高のスパイスになります。

上に挙げた例はまだわかりやすいんですが、完全に異質な香り同士を合わせることで新たな風味を作り出す方法も存在します。ただ、これはかなり難易度が上がります。上手くいけば想像もしなかった世界を作り出せるので非常に面白くはありますが、基本的なセオリーを無視して臨まないといけないので、かなり高度なセンスと努力が必要になります。

厳密に理論化していくことも不可能ではないと思いますが、恐らく感覚と経験に基づいて試す方が早いと思われます。

というわけで、ここでは香りのギャップ効果については詳しく言及しません。まずは味覚の同調とギャップ、および香りの調和についてしっかり学びましょう。

先味、中味、後味

味の感じ方は時間軸で変化します。口に入れた瞬間から感じる味覚が先味、咀嚼し始めてから感じる味覚を中味、最後に飲みこむ前に感じる味覚を後味といいます。この流れを総称して私は「味わいのエンベロープ」と呼んでいます。

基本五味はそれぞれ下記のような特徴を持っています。

  • 酸味【先味型】:すぐに現れ短時間で消えていく
  • 塩味【先味型】:すぐに現れ短時間で消えていく
  • 旨味【中味・後味型】:途中から現れて最後まで持続する
  • 甘味【持続型】:ゆっくり現れて後まで持続する
  • 苦味【持続型】:ゆっくり現れて後まで持続する

先ほどのグレープフルーツのサラダを例にして視覚化してみましょう。

で、お次はそれに合わせた、とある架空の純米大吟醸のグラフです。

※値はいずれも感覚値であり、味覚センサーなどを使用して厳密に測定したわけではありません。

普通は料理を食べてから酒を流し込みますから、ペアリングを考える際は料理の後味にフォーカスします。なお、酒に関しては先味後味の両方を考慮する必要があります。

というわけで、2つのグラフを合わせてみましょう。

 値についてそれほど厳密に考える必要はありませんが、こうして視覚化すると味のリズムがわかってイメージしやすいんじゃないでしょうか。

もっとも着目すべきは料理の後味が残っているところに、酒の先味が重なる部分ですね。ここで味覚の相互作用が発生します。そこから、酒の味わいがどういう流れで収束していくかを見ます。

味覚の相互作用

味覚にはそれぞれ相互に作用する効果があります。この組み合わせがなかなかややこしいのですが、覚えるべきパターンはそれほど多くありません。経験的に知っているものも少なくないと思いますので、臆さずにいきましょう。

とりあえず基本的なところを説明します。

対比効果

2種類以上の異なる味を混合したときに、一方または両方の味が強められる効果。

  • 塩+甘 → 例:スイカ+塩で甘みが増強
  • 塩+旨 → 例:昆布だしだけでは味気ないが、塩を足すと旨みが増強

抑制効果

2種類以上の異なる味を混合したときに、一方または両方の味が弱められる効果。

  • 苦+甘 → 例:コーヒーに砂糖を入れると苦味が抑えられる
  • 酸+甘 → 例:グレープフルーツに砂糖をかけると酸味が抑えられる
  • 塩+酸 → 例:寿司飯に塩を加えると酸味がまろやかになる
  • 塩+苦 → 例:意外に知られていないが、コーヒーに塩を少量入れると苦味がマイルドになる

相乗効果

同じ味覚を持つ物質を合わせたとき、相互に味を強め合う効果。例えば旨みの強いグルタミン酸を持つ昆布だしに、同じく旨みの強いイノシン酸を持つ鰹だしを合わせると旨みが増強するのは良く知られていますね。

変調効果

2種類の違う味を続けて味わうときに、後で食べる味が変化する効果。ミラクルフルーツを食べると酸味をほとんど感じられなくなる、みたいなものですが、ここではあまり考えなくても良いです。

まとめ

今回はここまで。まずはこのあたりのことを理解していないと、ペアリングを考えることが難しくなります。とはいえ、別に難しくないですよね?

次回はいよいよ本論。まずは香りについて考えます。

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