ドイツ発祥の酸っぱい乳酸発酵キャベツ、ザワークラウトを作ったので日本酒と合わせてみました。
ザワークラウトとは
ザワークラウトはドイツでよく食べられているキャベツの洋風漬物。
ソーセージの付け合わせなんかでよく出てきます。
作り方
基本的には刻んだキャベツを塩もみして数日放置するだけ。
衛生的な意味で食べるのに若干勇気がいりますが、乳酸が雑菌を駆逐してくれるので案外大丈夫なんですよ。
うちのレシピでは、2%の塩と少量のスパイス(クミン、パプリカ、鷹の爪、ブラックペッパー、ガーリックパウダー)を加えます。
スパイスは是非入れてください。あるとないとじゃ深みが全く違います。ただし入れすぎるとアチャール(インドの漬物)になるのでご注意を。
ちなみに、本場ではよくキャラウェイシードを入れますが、個人的に苦手なのでうちのには入ってません。
試食
とりあえず、これ。仕込んで一週間置いたブツでございます。
うん、酸っぱい。ただ、酢のような尖った感じではなく、厚みがあって旨味を含んだ酸っぱさ。
これぞ乳酸ならではの味。
五味チャートにすると、塩2甘0.5酸4.5旨3苦1くらい。
しかし、塩が結構入ってるはずなのに、塩味は酸味にかき消されてほとんどあまり感じないってのは面白いですね。梅干しとかも同じだけど。
このあたりは味覚の相互作用の中の、抑制効果ってやつなんですが、興味のある方は下記をどうぞ。
合わせる日本酒を考える
基本、日本酒とは盤石の相性を誇る漬物系だし余裕でしょ、と思ったら意外に苦戦しました。
乳酸の強い酒はどうか
まず注目すべきは乳酸。単純に同じような強い乳酸を感じる酒をチョイス。
しかし、イマイチ。いや、酒自体は個性的で素晴らしい出来なんですよ。そこは誤解しないでほしいんですが、ザワークラウトとは思いのほか合わなかったという。
生酒の新酒だったので、苦味がそこそこあり、なぜかそこが悪目立ちする。理由は不明だけど、にごりであることも関係してそうですね。
とにかく酸味と苦味というのは相性が悪い味覚同士なので、この子は別の機会に活躍してもらおう。
甘めの酒ではどうか
次に、酸のピークの強さ(4.5)に対抗できるくらいの甘さを持った生酒で合わせようと思って甘みが強いこちらをチョイス。
これも本当に美味い酒。もち米四段仕込みでスイーツ的甘さを誇りつつも、べたついた嫌な甘さではないのでついつい杯を重ねてしまう。
リンク先は新酒ですが、飲んだのは1年熟成でよりまとまりが出ています。
しかし、これも味覚のバランスとしては悪くはないがもう一つピンと来ない。
どこかベースの部分で融合しきれない要素があるんです。香りと旨味の質がなんとなく合わないと言いましょうか。
もしかしたら生酒ってのがダメなのかも。
ザワークラウトに手を加える
ちょっと煮詰まってしまったので、思いつきでザワークラウトにオリーブオイルをかけてみることに。
あら?これ美味いぞ!
オリーブオイルで酸が若干柔らかくなり、旨みが増す。要するにまとまりがでるのね。あ、わかった。これドレッシングと一緒だ。塩と酢と油だもんね。
五味チャートにするとこんな感じに変化します。見た目にもバランスが整ったのはお分かりいただけますでしょうか。
検索してもオリーブオイルをかけて食ってる例が見つからなかったんだけど、なんでだろう。こんなに美味いのに。
しかしこうなると、一気に酒の幅が広がります。
ノーマルのザワークラウトは酸が突出してて、そこがペアリング的には難しいところだったんですが、全体がまとまることで、同調させやすくなるのです。
そこで取り出したのがこの酒。
奥能登の白菊 特別純米原酒 八反錦 1年熟成
実は「これ!」という決め手があったから選んだわけではないんです。
たまたま幅広く合わせられそうなタイプの酒が家にあった。ただそれだけ。
しかし、後付けながら、ペアリングできそうな要素はいくつかあります。
まず火入れであること。
先ほど2種の生酒でイマイチだったので、とりあえずここは生酒の香りを排除したいところ。
そして、落ち着きのあるまろやかな風合いが、同じくまろやかなオリーブオイルと同調するはずです。
さらには柔らかなアタックとは裏腹な、八反錦らしいややソリッドなボディ。ベースとなるキャベツ自体はあっさりしているだけに、その部分との相性も期待できそう。
五味チャートを重ねてみましょう。
奥能登の白菊は甘3酸2旨味3.5苦1。
ちなみに、この酒は55℃くらいで高めの温度に燗付けしたほうがアルコール感が消えて、よりまろやかになります。
なるほど、ピーク値がほぼ揃いましたね。
これはいけそうだ。
実食!
燗つけしている間に、ザワークラウトを皿に盛り、上から多めのオリーブオイルを回しかけます。
ほどよく燗もついたところで、ザワークラウトを一口。
強めの酸味はオリーブオイルが包み込んで、優しい表情に変わる。わずかにスパイシーな風味も感じ取れる。
奥能登の白菊を平杯に注ぎ、口の中でキャベツとの融和を試みる。
うあー、これは大成功。至福。
素のままだと、どこかチグハグした印象だったのが、オリーブオイルを触媒にして酒との一体感が描き出される。
生酒で感じたベースの部分の違和感も全くない。
米の旨味をしっかり感じる滋味系の燗酒ながら、もったりと重くないところがやはり奏功した。八反錦は面白い米です。
まとめ
今回はぴったりの酒を見つけ出すというより、料理のクセを緩和してわりと万能な酒をあてがう方向での実験でした。
正直、勢正宗がザワークラウトにない甘みを補完することで、新たな味わいを創出してくれるんじゃないかと期待したんですが、そう簡単ではなかったですね。
この手法はいわゆるギャップのペアリングと呼んでいますが、互いに足りない別の味覚を補完しあえても、ベースの部分でズレがあるとダメみたい。
少なくとも、どこかに手を繋いでくれる箇所が一つないと最終的に融合しない。
それは共通する味覚であってもいいし、風味でもテクスチャーでもいい。
ただ闇雲に性質の異なる者同士をくっつけようとしても無理があるってことです。
そして、うまくいかなければ、どちらかが変わって歩み寄ればいい。変わること、変えることを恐れていては先に進めないのです。
あれ?なんか別の話になってきてるような…ここ、自己啓発のサイトだったっけ…?
ま、いろんな意味で学びがありました。
ところで、奥能登の白菊は相当美味いです。そして間違いなく、かなり幅広い料理と合わせることが可能。
この酒はもうちょっと掘り下げていきたいところですね。
それではまた!