日本酒ペアリング講座の第二回は香りについて掘り下げていきます。
はい、ここからようやく本論です。
若干長いですが、大事なところなのでがんばってお付き合いください。
香りの細分化と分析
まずは料理と酒、それぞれの香りを分析します。その中から同質あるいは近接するものを拾い出し調和させていきます。
逆にここで全く共通項が見つからない場合は基本的には「合わない組み合わせ」といえます(先述した通り、香りの「ギャップ」によるペアリングについてはここでは触れません)。
アロマホイールについて
ビールやワイン、コーヒー、ウイスキーなど香りを重視する飲料の世界には「アロマホイール(フレーバーホイール)」なる表があります(なんとしょうゆやダシ、ハチミツにもあるんです!)。
要はその飲料に含まれる香りを言語化して体系的にまとめたものです。これによって、匂いや味に対する共通表現ができるようになり、その対象の飲料の持つ香りを人に伝える際に役に立つのです。
以下は虹有社刊の「ワインの香り」に掲載されていたワインのアロマホイールです。海外のアロマホイールは日本人に馴染のない食材や表現が多く用いられているため、日本的な表現に作り替えた画期的なものです(日本酒の香りが「日本酒」とひとつにまとめられているのはご愛敬)。
日本のワインアロマホイール
しかし、これを初めて見たときは曼荼羅かと思いましたよ。これを完璧に嗅ぎ分けられるソムリエとか醸造家の人ってどんな鼻してるんでしょうね。
なお、この本には実際に香りを体験できるアロマカードも付属していて本当に勉強になりますので、ワインや日本酒、そして料理についての香りに興味のある方は絶対に買ったほうがいいです。
清酒のフレーバーホイール
一方で日本酒にもフレーバーホイールは存在しており、充分参考にはなるのですが、ワインほどは香りの種類が細分化されていません。また、味わいについても掲載されてしまっているので、残念ながらここで紹介するやり方には不適当です。
料理のフレーバーホイール
で、ペアリングを軸に考えると当然料理のフレーバーホイールも必要になってきます。ただ、あまりに香りの種類が膨大になるので存在しないだろうなあと思ってあきらめていたところ、偶然手にした「風味の事典」に掲載されていたものがこちら。
恐らく料理に関するフレーバーホイールはこれ以外に存在していないと思います(見つけたら是非教えてください)。
この本自体は本当に素晴らしい内容なのですが、このフレーバーホイールの中には日本酒に共通した香りがあまりないんですよね。そこだけほんと残念。
最終的には比較的詳しく細分化されているワインのアロマホイールを料理と日本酒の両方に共通して使えるものとしてお薦めしたいと思います。
ちなみに感覚的に合うとか、そっちのほうが分かりやすいということであれば風味の事典のものや日本酒のものを使用しても特に問題はありません。
料理の香り分析
まずは料理の香りです。
料理の香りを嗅いでから先ほどのワインのアロマホイールをじっと見て考えてみましょう。いろいろな匂いが複合的に感じられると思いますが、最初は最も支配的な香り=主香(造語)を抜き出してください。
そこまで細かくは難しいと思うし、ワインとは当てはまらない香りもあると思うので大まかな雰囲気で大丈夫です。
そこから、二次的に感じる匂い、つまり副香(造語)もざっとメモしてください。実はあとあとこの副香(造語)がペアリングに影響してくることも多々あるのです。
日本酒の香り分析
次は日本酒の香りです。
同じように香りを嗅いでアロマホイールとにらめっこしてください。だいたいどのあたりの匂いをもっているかわかりましたか?
日本酒の香りはワインほど複雑ではありませんが、とりあえず大きく分類すると「フルーティ系」「フローラル系」「甘臭」「木香」「酢酸臭」「乳酸臭」「熟成香」「オフフレーバー」のいずれか、もしくはこれらを複合的に含んでいることになります。
※「臭」と「香」の使い分けに意味はありません。なんとなくの感覚です。
香りのマッチング
ここまでできたらあとは料理と日本酒の香りをマッチングさせる作業です。
同じカテゴリの香りがあれば文句なし。同じでなくとも近接したアロマ同士は比較的相性が良いのでペアリングさせても喧嘩はしません。
いくつか実例をあげましょう。例えば、ナッツ系の香りを持つ熟成した日本酒とごぼうやキノコを使った料理。この場合はナッツと土系のごぼうの香りがマッチするはずです。
また、青臭い香りをもった料理なら同じ植物系のフルーティだったりフローラルな香りのある日本酒が合います。
なお主香が合わなくとも、共通する副香が含まれている場合は意外にマッチすることもありますので、一度ペアリングを試してみる価値はあります。
香りの添加
料理の持つ香りとあわせたい日本酒の香りが合わない時点で、その日本酒は候補から外すのが基本ですが、経済的な理由とか、親の遺言だとか、宗教上の理由などでどうしてもその日本酒を使いたいこともあるでしょう。
そんな場合は、料理に添加物を足すことで解決できることがあります。
例えば、フルーティな日本酒と生魚はあまり相性が良くないですが、ミントやタイム、ディルなどを添加するだけで一気に香りの種類が近接してマッチするようになります。
意外に思われる方も多いですが、ハーブは同じ植物系の香りをもつフルーティな日本酒とあわせやすいのです。日本のハーブであるシソ(大葉)やワサビとの相性の良さを思い起こしていただければ理解しやすいでしょう。
まとめ
ここまで、香りについて分析してきました。まずここで大まかなふるいをかけたことになります。先ほども書きましたがこの時点で合わない酒は候補から外してOKです。
次回は味覚による分析です。