音楽と日本酒を無理やりペアリングさせる企画の第9弾はKing Gnu(キング・ヌー)を取り上げます。
King Gnuの来歴
King Gnuは東京藝術大学出身の常田大希(Vo, G)が中心人物のミクスチャーバンド。2015年に前身となるSrv.Vinci(サーヴァ・ヴィンチ)」を結成してから、あれよあれよという間に売れて、2017年にはフジロックに出演、同年10月にはファーストアルバム「Tokyo Rendez-Vous」、翌2019年1月にはセカンドアルバム「Sympa」をリリース。
音楽番組「バズリズム 02」(日本テレビ系)で、音楽業界人が選ぶ恒例企画「今年コレがバズるぞBEST10」で1位となるなど注目度MAXの若手バンドです。
ずっと音楽をやってきて芽が出なかった人間からしたら、このトントン拍子の出世街道は羨ましいことこの上ない。正直に言わせてもらうと、若干ムカつきます。まあ、彼らにというより、主に自分の不甲斐なさに対してですが。
常田大希の才気
だからといって、音楽の素晴らしさまで否定するほど腐っちゃいないわけで。作詞作曲サウンドクリエイトのすべてを手掛ける常田大希のほとばしる才能は悔しいけど認めざるを得ない。
東京藝大出身(後に中退)で根っからのアーティスト気質である常田はソロプロジェクト「Daiki Tsuneta Millennium Parade」でも非常に一般受けしづらいアーティスティックな作品を発表しています。
そんな常田にとっては、King Gnu自体はただの通過点というか、彼の数ある表現手段の一つに過ぎないのはインタビューなどを見るとわかります。後の活動をやりやすくするためにメジャーになっておく必要があると感じて、比較的分かりやすい音楽をやるために結成されたという経緯もあるようですし。しかし、そんな理由で本当にメジャーになれるこの人って何なのよ…とも思いますが。
恐らく彼は今後もKing Gnu以外でも精力的に作品を作り続けていくことでしょう。ただ、King GnuにはKing Gnuでしかできない表現があることも事実。
井口 理
それは、Vo,Keyの井口の力によるところがかなり大きい。彼の存在感はこのバンドにおいては計り知れないものがあります。彼無くしてKing Gnuは存立し得ない。それは間違いないでしょう。
ハイトーンで七色の声を持つと称される変幻自在なヴォーカルに加え、エキセントリックなのに人から愛されるキャラクター性。新曲が完成するたびに、twitterであらゆる著名人のアカウントに「新曲を聴け!」とリプライを送り付けることはファンの間で良く知られています。(俺の知り合いのDJにもそういう奴いたな…)
その佇まいは古き良き時代の破天荒なロッカーのよう。まるでTHE WHOにおけるキース・ムーンみたいな。
ただ、こういうタイプの人って得てして繊細なメンタルを持っているもので、どこかで破たんしないかハラハラしてたりもします。アル中とかヤク中とかにならなきゃいいけど…。
白日
今回紹介するのは、そんな彼らの初のドラマタイアップで「イノセンス 冤罪弁護士」の主題歌として書き下ろされた「白日」です。
中毒性
最初に聞いた時はそこまでインパクトはありませんでした。ただ、時間が経つとなぜかまた聞きたくなる。それを繰り返していくうちに気づけば1日2回はこの曲を聞かなければいられないほどの中毒に。
恐らくこの中毒性はアクの強いメロディによるところが大きいんでしょう。この激しく乱高下する複雑なメロディは相当個性的。ただ、井口と常田のツインボーカルは、巧みなスキルでその難しさをほとんど感じさせないのがすごい。
ボーカルアレンジの面白さ
ボーカルアレンジも個性的で面白い。オーバーダビングで声を幾重にも重ねる手法は美しく印象的で、どこかQueenを思わせます。また常田メインのパート(Bメロ)で歌とギターをユニゾンで乗せてくるのもこの曲の独特の雰囲気に一役買っています。
この手のややこしいことをやる人って、どうしてもその難しさや複雑さを前面に出してきて、その部分で自己主張しがちなんだけど、彼らにはそういった気負いがないんですよね。
腰の強いグルーヴ
そしてバラードでありながら芯の強いグルーヴ創り出しているのは新井和輝と勢喜遊のリズム隊の力。ブラックミュージックからの影響を強く感じさせるミッドテンポの後ノリちょいハネ16ビートでグイグイ引っ張ります。目立たないけど、このグルーヴがなかったらこの曲の魅力は半減どころか、ほぼ成立しないと言ってもいいでしょう。
歌詞の世界観
ちなみに、歌詞を雑に要約すると、誰しも多かれ少なかれ誰かを傷つけて罪を重ねながら生きている、それは決して消えるものではない、といったもの。ただ、この歌の主人公はその苦々しい事実を理解しながらも、受け入れることまではできずに苦しんでいる。そんな様子が、彼らの歌と演奏から痛いほどに伝わってきます。
いや、もうお手上げ。まったくもって高すぎる完成度。
あべ 純米 おりがらみ
この曲を聞いて脳裏に浮かぶのは雪景色、そして色のイメージはもちろん白。
というわけで、「白日」の世界観をさらに補完すべく今回選んだ一本は「あべ 純米 おりがらみ」。うすく濁った酒のビジュアルは歌詞のイメージにもしっかり寄り添うように思えます。
この「あべ」シリーズは阿部酒造 6代目の阿部裕太氏が26BYから始めた日本酒好きの間では近年最注目銘柄の一つ。淡麗辛口がスタンダードな新潟にあって、しっかりとした味わいで完成度の高いお酒を造っています。
やや華やかなカプロン系の香りと上品でバランスのいい甘みが二人のフロントマンであるならば、それを下支えする酸と旨味の存在はリズム隊か。第一印象はキャッチーで分かりやすいんだけど、決して安っぽくはなっていないあたり流石ですね。
King Gnuと同じく新進気鋭の若手蔵元で、すでに充分完成度は高いんですが、さらに伸びていく可能性を感じさせるお酒でした。
あ、そうそう。自分はtwitterやってないんでできないんですが、誰かこの記事のURLを井口さんのアカウント(https://twitter.com/satoru_191)に送り付けてください!
それではまた!