ここのところ、クリームコロッケとかエビチリとか、庶民的な料理が多くなってきていますが、それは何を隠そう私が庶民だからです。今回も皆様に親しみのある料理としてエビグラタンをとりあげます。
グラタンとは
グラタン(gratin)とはフランスの郷土料理が発祥ですが、単語の意味としては 「掻き取る」という意味のgratterから転じておこげのことを指すそうです。つまり、中身に関わらず、本来は表面を焦がした料理全般のことなんですね。
日本で一般的なのはベシャメルソースに魚介や肉などを絡め、チーズをかけてオーブンで焼いたもの。洋食は日本独自の進化を遂げた料理も多いですが、これに関してはフランスでもほぼ同じ料理として存在しているようです。
所謂家庭料理なので、フレンチレストランというよりは町の洋食屋さんで出されるイメージですが、調べてみると意外にそこそこ高級なフレンチの店でもメニューに入っていることがあります。高級なグラタンってどんな感じなんでしょうか。一度食べてみたいものです。
料理の分析
材料
ベシャメルソース(ホワイトソース)の材料としてバター・牛乳と小麦粉を。
具材としてエビ・白ワイン(エビの下処理用)・マカロニ・玉ねぎ・チーズなどが使用されます。
香りの分析
チーズの焦げた香りとベシャメルソースの乳製品らしい香りがメインですが、ここにエビ独特の甲殻類フレーバーが加わります。
五味の分析
塩2、甘1、酸2.5、旨3、苦0.1くらいかな。
乳脂肪系でもったりしたテクスチャーなので、なんとなく重いイメージがありますが、五味だけを見ると意外と淡白というか、ピーク値は小さめなんですね。ここ、ポイントです。
合わせる日本酒を考える
乳製品系といえば、そのテクスチャーからにごり酒を合わせるのが鉄板なんですが、この手法はこれまでにも紹介していますので、今回はあえて濁っていない清酒を合わせたいと思います。
ポイントになるのはチーズおよびバターの乳的要素。エビが持つミネラル感。そして、五味のボリュームが意外に小さいことの3点。
乳脂肪とフルーティな酒
まずは乳脂肪から考えます。
強い油脂を持った乳製品とフルーティな日本酒の相性が良いことはこれまでも記事にしていますが、今回もここに着目していきます。
エビのミネラル感
次はエビ。エビに限らずシーフード全般に言えることですが、これらはほとんど海水由来のミネラル感を持っています。(原材料におけるエビの比率は少ないので、感じられる程度はわずかですが)。
ですから、同様にミネラリーなニュアンスを若干感じられる酒を合わせてみましょう。
ボリュームの小ささ
レシピにもよりますが、基本的には先ほど分析した通り、軽めの味わいであることが多いと思います。そうなると、どっしりした純米系は除外ですね。
まとめると…
これらを総合すると、(1)フルーティで、(2)ややミネラルがあって、(3)ボリュームは比較的軽め、ということになりますが、今回ここから導き出した酒が「松の司 azolla50」です。
松の司 AZOLLA50
「松の司」は滋賀竜王町にある松瀬酒造が醸す銘酒。どのスペックもハイレベルで素晴らしいんですが、特にこのAZOLLAをはじめとする吟醸系の酒質は特筆もの。上品さと腰の強さ、そしてキレを兼ね備えており日本酒好きの間では非常に高い評価を得ています。
このAZOLLA50はその名の通り50%まで磨いた純米大吟醸。立ち香で柑橘のニュアンスとカプロン酸がほどよく香ります。そこそこフルーティですが、そこまで極端な華やかさはありません。
甘さは上品で控えめ、酸の立ち上がるスピードは遅く柔和な表情。そして、洗練された旨みが優しい甘みを引き連れてやってきます。期待通り、若干のミネラルもあり、骨格はしっかり。うーん、さすが見事な品格。
五味チャートにすると、甘2、酸2.5、旨2.5、苦0.5くらいかな。
五味チャートで合わせてみた限りではボリュームのバランスはとれてますね。
ただ、口の中でいろんな味がちょっとごちゃっとしちゃうかも。
実食!
目の前にグラタンが給仕されると、焦げたチーズの香りがふわりと漂い、それだけで食欲をそそります。早速スプーンを突き立てて熱々のチーズの層を破ると、中から覗くのは小さなエビの背中。そのままソースとエビをすくい上げ、少し冷ましてから口の中にゆっくり運びます。
うん、いつものグラタンだ。チーズの酸味とベシャメルソースの柔らかい旨味、そして最後にエビの風味が鼻から抜けていく。
ミルキーなコクが残っているところにAZOLLAを少量流し込むと、意外にも甘みはあまり感じず、ちょうど後味の旨みでぐぐっと同調。甘味が抑えられたおかげで五味のピークは旨味と塩味と酸味の3つに収まりました。
含み香は強くないものの、それなりにフルーティなので料理とケンカする懸念もありましたが、結果としては全く違和感なくフィット。
やはり、予想した通り五味のボリュームが強すぎない純米大吟醸であったことが功を奏してうまくまとまりました。
日本酒の先味である甘みと酸を思ったより感じなかったのは、もったりしたクリームが舌をコーティングしてたからなのかな。ここは今後要検証ですね。
また、味の要素としては小さいのですが、エビと酒のミネラル感を繋ぎ役としたことは正解でした。これが無かったら、テクスチャーのミスマッチが目立ってしまいイマイチだったと思われます。
つまり、グラタンには大吟醸ね!オッケー!みたいな大雑把なノリでベストなペアリングを見つけることはできないのです。
まとめ
今回もなかなかのペアリングでした。
一見濃厚なクリーム系の料理に、さらっとした純米大吟醸を持ってきたのは意外だったんじゃないでしょうか。
確かにグラタンの脂肪分や舌にまとわりつく感覚を総合すれば、濃厚であることに間違いはないのですが、本サイトの五味分析を基にする手法を使うと、こういった別の方向性が見えてくることもあるのです。
まあ、欲を言うなら、焦げたチーズの酸と旨味にフォーカスして、もう少しだけ酸の厚みがある酒だったらさらに相性が良かったかも。ただ、それも温旨酸系か中間系でないとチグハグになりそうなので、チョイスの際は注意が必要ですね。吟醸酒の場合、どうしてもリンゴ酸やクエン酸の冷旨酸系が強くなりがちですので。
それではまた!