ブーダンノワールとは、豚の血を使ったいわゆるブラッドソーセージであります。
今回は、こいつと日本酒の相性を探ってみようという企画です。
ブーダンノワール(Boudin noir)とは
まずはブーダンノワールについてご説明を。
フランスのシャルキュトリー(食肉加工品)で、「Boudin(ブーダン)」は腸詰め、「noir(ノワール)」は黒色という意味。つまり、黒い腸詰めってことですね。
原材料は豚の喉、舌、頬肉、鼻、皮、血とこれだけ見るとちょっとしたホラーですが、それ以外にも長ネギ、タマネギ、ニンニク、パセリ、タイム、ローリエ、セロリなどのハーブ系に加え、スパイスは唐辛子、コリアンダー、シナモン、キャラウェイ、クローブ、ナツメグとかなり複雑にいろいろと加えられています。
恐らくは臭み消しの意味合いが強いんだと思いますが、そのおかげもあってかクセや臭みはほとんど感じられません。
今回いただいたのは、フランス直輸入の缶詰でして、評価の高いフランス2つ星のシェフ「クリスチャン・パラ」のもの。これをソテーしていただきます。
ブーダンノワールの分析
では、例によって料理の分析から。
香りは上述した通り数々のハーブやスパイスが複雑に絡み合ったもので一言で言い表すのは難しくなります。ただ、それらはあくまで脇役に徹しており、際立ってスパイシーということもないので案外さらっと食すことができます。
味わいとしては、安い例えですがコンビーフに似ていますね。コンビーフに深みと複雑さを足した感じ。この例えからもわかるように、脂はかなりあります。
五味を数値化すると甘1、酸1.5、塩3、旨4、苦0.5ってところでしょうか。
主な構成要素は塩味と旨味、そしてここには出てきませんが脂ということになります。
合わせるべき日本酒を考える
これに合わせるべき日本酒…真っ先に思い浮かんだのは赤ワインでしたが、それを認めるとこのサイトの存在意義に関わるので、頭の中で必死にかき消しました。
えーと、まずポイントになるのは脂とそれに伴う濃厚な味わいですね。まずはこの味わいに負けないボディの太さをもった酒である必要があります。
次に香り。このスパイス&ハーブの香りには間違いなく熟成酒の深くて複雑な香りを合わせるべきでしょう。
で、面白いのが、このブーダンノワールって付け合わせにリンゴのコンポートとかイチゴジャムをつけるのが定番なんですよ。一瞬「えっ!?」と思いますが、合わせてみるとこれが驚くほどマッチするんです。ちょっとこれはこれで、どういうことなのか深く探求したいと思っていますが、とにかく「甘味」と相性がいいのは確かなわけです。
というわけで、今回「太いボディ」「熟成香」「強い甘味」というポイントから導き出した酒は…剣菱です。
剣菱について
えっ、剣菱ってあのスーパーやコンビニとかでも売ってる剣菱!?イエス、その剣菱です。普通酒です。アルコール添加の安酒です。
あのね、剣菱をバカにしちゃいけませんよ。酒どころ灘で500年以上続く技術と変わらぬ味わいは伊達じゃありません。
このサイトでは比較的マニアックな酒を中心に紹介してますが、あくまでクオリティファースト。どこで売ってようが美味いものは美味いんだから。
剣菱の味わいを一言で表すなら濃醇でスパイシー。甘みも結構強いので今回のペアリングの第一候補となったわけです。
予想チャート
剣菱の味わいを数値化すると、甘3.5酸2旨4苦0.5くらいかな。
ブーダンノワールと合わせるとこんな感じ。うん、よさそうですね。やや酸が浮く可能性もありますが、甘・塩・旨の鉄壁のアンサンブルに期待しましょう。
実食!
まずはソテーしたブーダンノワールを一口。穏やかながら複雑な香りを伴って、血液由来でしょうか、深みのある旨味が口中を支配します。脂が多いのでどこかマイルドさもあります。
ここで、45度に燗つけした剣菱を流し込みます。含むとそこそこの甘みがブーダンノワールの脂肪分と溶け合います。特筆すべきは醤油や味醂とも共通する独特のスパイシーな熟成香で、これがブーダンノワールの複雑な風味とベストマッチ。どちらも単体だと若干のクセがありますが、ペアリングすることで相互に引き立てあい逆にそのクセが病みつきになります。
いやあ、今回もたまらなく美味かったです。
まとめ
ブーダンノワールという、一般的には知名度が低いフレンチ系食材でしたが、問題なく日本酒との相性の良さを発揮してくれました。今回も日本酒の懐の深さをしみじみ感じた次第です。
しかし、剣菱は本当にすごい。これ以外にも合う料理は無限にあって、そのポテンシャルの高さとコスパの良さは日本酒界の良心と言っても過言じゃないと思います。
ある程度熟成酒の味わいに理解のある方で未飲の方がいましたら、ぜひ一度そのへんのコンビニやスーパーで手に取ってみてください。私がこれだけ薦める理由が理解いただけるかと。
それではまた!