辛口の本当の意味
たまに日本酒イベントなどで提供側をやらせていただくことがあるのですが、そこで圧倒的に多く言われる言葉、それは「辛口ください」。
それ自体を貶す気はないんですよ。
要するにあれは、まだ自分の好みを表現するボキャブラリーのない方が「よくわからないけどとりあえず美味い酒をくれ」という意味で使ってるのは明白なので。
むしろ日本酒の奥深い世界を知るきっかけになるくらいに思ってます。
ただ、ちょっとがっかりするのは、辛口くれとだけ言ってお出しすると銘柄も見ずに飲んじゃう方。日本酒自体に興味がなくて、ただ酔えればいいっていう考えが透けて見えちゃうと残念な気持ちになります。
辛口を求められた時の対応
ところで、辛口くれって言われたら地酒屋や居酒屋の人はどういう対応をしてるんでしょう?
ちょっと興味があって、数人の方にインタビューしたことがあるのですが、いくつか紹介します。
1.決まった銘柄を置いておき、それを薦める
日本酒を広めることをミッションとするならば、真摯なやり方とは思いませんが、忙しく店のオペレーションをしながらであれば、これが無難なところかもしれません。
もちろん、汎用性があって万人に好まれる質のいい辛口酒を選ぶ必要はあります。
2.辛口の定義を丁寧に説明して客の本当の好みを探る
本来はこうあるべきかと思うのですが、そんな講釈を求めていないお客さんにとってはウザがられるでしょうし、下手をするとお客さんを否定してしまうことに繋がるので細心の注意が必要です。
3.酒に対する自分の思想を延々語りだす
まあ論外なんですが、面白いので個人的にはこういう人も好きです。
4.辛口?そんなものは置いてねえと一蹴する
これも客商売的には論外ですが、たまにはこういう頭のおかしい店もあっていいんじゃないですかね。自分は怖いので行きませんが。
5.とりあえず肩貼りに辛口と書いてある酒を出す
1に似ていますが、ある意味合理的です。
辛口を頼むお客さんはまだ初心者であって、細かい違いにこだわるわけではなく、選ぶことが難しいのでおススメが欲しいだけなんですよね。
だからといって、本当に適当なものを出してしまうのも不誠実。
だったら、酒そのものに「辛口」と書いてあればリクエストと違う!と怒られることもないし、無難よね。
自分の場合
自分の場合は、辛口と言ってもいろいろなタイプがあることを説明して、まずは一杯飲んでもらい、「どうでしたか?もっとあっさりしたのがいいですか?それとも、もうちょい酸があるほうがいいですか?」みたいな感じで探りを入れつつ、相手の好みを開発していくスタンスです。
単純に、このやり取りが楽しいんですよ。
これの利点はこちら側(日本酒バカの世界)に引きずりこむきっかけができることにつきますが、一方で時間がかかるというデメリットも。
お客さんとゆっくり話す時間がとれないシチュエーションでは不可能なんですよね。
辛口信仰
しかし、イベントやってて不思議だなと思うのが、若い人でも辛口くれと言う人が意外にいるという事実。
辛口信仰の歴史を紐解くと、ある程度年配の方で辛口こそ正義と考える人がいるのは理解できるんです。
でも、まだ若い人でもそう考えているってのは、やはり辛口信仰は根強いというか、下手したら悪い意味で文化として継承されてしまっている側面もあるのかなと。
とりあえず、辛口信仰がいかに形成されていったかは下記で書いていますので、興味のある方はぜひ。
とりとめもなく書き連ねてきましたが、辛口の日本酒そのものは私も大好きです。
そして、辛口をくれと言う人に出会ったら、もっと日本酒を知ってもらうチャンスだと思って喜びましょう!
それではまた。