今回は、中華料理の中でも人気の高い回鍋肉(ホイコーロー)を取り上げます。
かなり濃いめの味なので繊細な日本酒が合わせられるの?と思うかもしれませんが、大丈夫。
単純な話、料理が濃いなら酒も濃いものを選べば良いだけですから。そして濃すぎたら薄めればいいんです。
今回はそのあたりの調整についても取り入れてペアリングしていきます。
回鍋肉
材料は豚バラ肉と野菜各種(ピーマン、キャベツ、長ネギなど)、ポイントは二つの発酵調味料で豆板醤と甜麺醤(てんめんじゃん)が味の決め手になります。
これら材料を炒めて調味料を絡ませるだけ。レシピを見て分量を守れば誰でも簡単に作れます。
五味チャート
味わいは全体的に濃い。パンチがありますね。
では、五味のバランスをチャート化してみましょう。
数値化すると塩3.5 甘2 酸1 旨4.5 苦2。
レシピによっては砂糖を加えて甘みを強くしたものもあります。
ただし、一般的にはこんなもんでしょう。
合わせる日本酒を考える
熟成系
さあ、ここにどんな日本酒を合わせるか。
まずは濃い味付けに合わせて濃醇な酒であることは必須です。
その上で、どんな風味、味わいがベストであるか。
中華に合わせる酒といえば紹興酒が定番ですが、まさにこの回鍋肉のようなコクのある濃い味付けの料理に向いています。
紹興酒的な風味の日本酒といえば、もうお分かりですね。古酒、または熟成酒です。
早飲み系の日本酒では味わいが軽すぎて難しいですが、熟成系であれば濃醇系もたくさんあるので問題ありません。
完全同調を狙うべきか?
五味チャートを見ての通り、酸が低い数値です。
つまり、同調を狙う上では酸味が強い酒は合いづらいということが言えます。
となると、甘みが抑えめで旨みの強い酒が完全同調を狙えそうです。
しかし、その方向性だと五味のうちピークを叩く味覚が旨味だけになっちゃいますよね。これだと、ちょっと物足りないんです。
※五味のピーク値に関しての考え方は以下を参照してください。
甘味を足す
そこで足すべきは「甘味」です。そこそこ甘みの強い酒で、旨みの他にもう一つ味覚のピークを足すのです。
これにより、複雑で立体的なマリアージュが完成するはず。理論上は。
まとめると
というわけで、まとめると「濃醇で」「甘みのある」「熟成酒(古酒)」が条件になりました。
神亀 純米 甘口
埼玉県が誇るザ・純米酒、神亀。
この蔵のシンボルとも言える商品はむしろ辛口を売りにしていますが、これは珍しく日本酒度もマイナス1~3の甘口。
ただ、甘口であっても、ほどよい熟成感、強い米の旨味は当然あります。
そしてこの落ち着きがあって燗上がりする酒質は神亀のDNAそのものです。
ラベルには書いていませんが、およそ5年ほど蔵内で寝かせているはず。
それもあって、初心者には若干クセがきついかもしれません。
五味チャートを重ねる
ここで、神亀 甘口と回鍋肉の五味チャートを重ねてみます。
酒のほうは甘4 酸2 旨5 苦1.5としましたが、旨みに関しては6くらいつけても良かったかも。
それくらい旨みのゴツさは回鍋肉を超えています。
とはいえ、基本的には目論見通りのチャートになりましたね。
実食!
豚バラとキャベツを一緒に。
うわ、やっぱり味が濃いなあ。白いご飯をかきこみたくなる衝動を抑えて、米の代わりに人肌燗の神亀をちびり。
なるほど。甘みに関しては、意外に回鍋肉と同化して目立たないですね。
ちょうど砂糖を少し足したくらいの感覚なので違和感ゼロ。
むしろ、それより気になったのは酸と古酒的なクセが前に出てくること。
このクセは紹興酒にも似た熟成感なので中華との相性は良いんです。想定内。
ただし、それでも酒のほうが強いので含む量には注意が必要です。
まとめ
だいたい狙い通りのペアリングでしたが、ここまで酒のほうのパワーが強いのは誤算でした。
ほんの少し加水するか、含む量を少な目にするとちょうどバランスがとれます。
そういった一工夫が必要という意味では若干難易度が高かったかもしれません。
でも、それもまたペアリングの面白さ。
ぴったり合わなければ、手を加えて調整する。
これはペアリングを楽しむ上で非常に大切なことです。
それではまた!