お燗に適した酒を見定めよう
突然ですが、あなたは温かい冷やし中華を食べたことありますか?
冒頭から何言ってるんだこいつと思ったかもしれませんが、温かい冷やし中華、実はこれが非常に不味いんですよ。やっぱり、冷やし中華は冷たいほうがおいしいし、普通のラーメンは熱いほうが美味しい、つけ麺は冷でも熱でもおいしいけど。
まあ当たり前のことなんですが、要するにラーメンは種類によって適温があるのです。で、これは日本酒でも同じことが言えます。
すなわち、冷たいほうが美味しいもの、温めたほうが美味しいもの、どちらでも美味しいものの3種類があるということ。 (何をどうやっても不味い残念な酒も存在しますが。)
そう、お燗マスターへの第一歩は燗向けの酒を見極めるところから始まるのです。
正直、確実に燗上がりする酒を選ぶことができれば、テクニックの多少は不問になります。大体はどう温めても美味しくなりますから。
ラベルの情報から推測する
では、どう見極めたらいいのか。まずは瓶に貼ってあるラベルを眺めてみましょう。ラベルに表示されている情報から、ある程度の傾向は見て取ることができます。ただし、あくまで「傾向」です。例外は山ほどありますので、そこはご理解を。
見るべきポイント | 比較的燗に向く | 比較的燗に向かない |
精米歩合 | 低い(普通酒・本醸造・純米酒) | 高い(吟醸・大吟醸) |
造り | 生酛・山廃 | – |
熟成 | ひやおろし・熟成酒・古酒 | 新酒 |
火入れ | 火入れ | 生酒 |
ラベルの雰囲気 | 古臭い・髭文字 | おしゃれ・モダン |
もう一度言いますが、これはあくまで「比較的そういう傾向にある」という表です。これにとらわれすぎて、「燗に向かない」に分類された酒を燗しないのはもったいないです。
逆に燗に向くと思われても、もともとの出来が良くない酒はどうにもなりません。燗とか冷やとかそれ以前の問題です。
とにかく、上でも少し書いたように、大吟醸でも生酒でも燗上がりする酒はあります。お燗にルールはありませんので。
冷や(常温)で飲んで判断する
ここまで、勘や情報を頼りに選ぶ方法をご紹介しましたが、結局のところやってみないとわからないわけです。一番良いのは、手当たり次第に全部燗をつけて味見してみることですが、それなりの時間も労力もかかります。
そんなわけで、お次はせめて冷や(常温)でテイスティングした時点で燗向けかそうでないか見極めるポイントをお伝えします。
香り
いかにも今どきの華やかでフルーティな女子受けする酒はあまり燗に向きません。温めることで吟醸香が増強しすぎてしまいバランスが崩れるためです。
また、生酒も注意が必要です。生酒には特有のムレ香・生ひね香(アセトアルデヒド由来といわれる)が多かれ少なかれあります。冷やして飲めばそれほど感じないのですが、吟醸香と同様にこの香りも温度が上がるにつれ強くなります。
もちろん、生酒でもこのムレ香・生ひね香がほとんど感じられないものはありますので、そこは味見して判断ですね。
甘味
そこまでセンシティブになる必要はありませんが、甘めの酒はやや注意したほうがいいかも。なぜなら、燗をつけることで甘みが増強するため、バランスが崩れることがあるのです。
蛇足ですが、チェーン系の安居酒屋の飲み放題メニューに入っていそうな、変に甘い出来の悪い普通酒ありますよね。あれを燗つけすると、その嫌な甘みがさらに増してベタベタした得も言われぬ不味い飲み物ができあがりますので、未経験の方は一度お試しください。
酸味
味わってみて、温旨酸系の酸をより強く感じられるようであれば、燗で旨みが開く可能性が高くなります。
温旨酸系と冷旨酸系の違いについて、ものすごく雑にイメージをお伝えするなら、太さと厚みがあって旨みを伴う酸は温旨酸で、シャープで爽やかな酸は冷旨酸と覚えましょう。
詳しくは下記を参照してください。
→参考:日本酒ペアリング基礎理論~日本酒と料理を合わせるためのたった3つのポイント~>2-2-2. 味覚ごとの特徴>酸味
なお、冷旨酸系の酢酸やクエン酸、リンゴ酸は冷たいほうがより実力を発揮しますが、決して温めることで不味くなるわけではありません。柔らかさが増して口当たりは良くなります。
そこまで計算して、これはいける!と判断したなら温めてみるのも一興ではないでしょうか。
旨味
ここも重要なファクターです。旨みが強いものほど燗上がりする傾向にあります。
逆に、旨みの軽い酒を温めることで足りなかった旨みが増してバランスが整う、ということもあります。
まとめ
意外にラベルの雰囲気なんかは判断材料として有用だったりします。
もちろん、経験は必要になりますが、大まかな傾向がわかればチョイスも楽になるんじゃないでしょうか。え?こんなまどろっこしい小理屈なんかどうでもいいから、具体的に銘柄を教えろ?
ですよねー。では次回は燗上がりする銘柄をずらずらっと30種ほどご紹介しようと思います。お楽しみに!