お燗してみたいけど、どうやったらいいかわからないという方、案外多いんですよ。日本酒は温めるとどう変化するのか、そして、それによってペアリングにどんな影響があるのか。このあたりを徹底解説します!
夏でもお燗
寒い日が続きますね。こんな日は熱燗をキュっと一杯飲んで暖まりたい…なんて、そんなコテコテのつまらない書き出しはいたしません。
私は夏でもお燗をします。だって日本酒は温めるとおいしいんだもの。行きつけの日本酒のお店では「温め屋さん」の異名を持つくらいですから。ペアリングにおいても燗をうまく使いこなせれば幅がぐっと広がりますしね。
というわけで、お燗についての記事を書いていたんですが、当初の予想をはるかに超えるボリュームになってしまったので数回に分けてアップしていこうと思います。
一回目は概論です。燗によってどんな効果が得られるのか、またそれをペアリングにどう生かしていくのかを考えていきます。
ちなみに、タイトルは
では、まずそのあたりからご説明しましょう。
日本酒の温度帯と呼び名
実は日本酒はその温度帯によってこれだけの呼び名があります。日本酒の世界では常識ですが、一般的にはほとんど知られていません。
※温度は全て「約」です。厳密なものではありません。
- 60℃~ 飛び切り燗(とびきりかん)
- 50℃ 熱燗(あつかん)
- 45℃ 上燗(じょうかん)
- 40℃ ぬる燗(ぬるかん)
- 35℃ 人肌燗(ひとはだかん)
- 30℃ 日向燗(ひなたかん)
- 20℃ 冷や(ひや)=常温
- 15℃ 涼冷え(すずびえ)
- 10℃ 花冷え(はなびえ)
- 5℃ 雪冷え(ゆきびえ)
これ誰が考えたんでしょうね。風流な呼び名だとは思いますが、全部覚えるのはなかなか大変だと思うので、とりあえず「ぬる燗」「上燗」「熱燗」くらいは覚えておきましょう。
え?それも面倒?じゃあ、ぬる燗と熱燗は温度が10度くらい違って、味も全然変わってくるってことだけでいいです!
お燗で日本酒はどう変わる?
そうなんです。日本酒はその温度帯によって全くといっていいほど味わいが変わります。日本酒に限った話ではなく、ビールでもワインでも味噌汁でも同じですが。
では具体的にどう変わるのか。飲んでみるのが一番早いですが、言語化するとだいたいこんな感じです。
- 味のエンベロープがシームレスになる
- 全体的にまろやか、かつふくよかになる
- 香りが強くなる
- 旨みが増す
では、それぞれ解説していきましょう。
1.味のエンベロープがシームレスになる
いきなり耳慣れない横文字が並んでて胡散臭さ全開ですが、言い換えればまとまりが出てスムーズになるってことです。まだわかりませんよね。
エンベロープってのは味覚の時間的な移り変わりのことを言います。日本酒は基本的に、最初に甘味を感じ、次に酸味、ほどなくして旨味、最後に苦味といったふうに時系列で味覚が変化していきます。これは経験的に理解できるんじゃないでしょうか。
この変化において、冷酒だとガタガタしていたのが燗にすることで繋ぎ目を感じなくなり滑らかに感じられるようになるのです。
なお、 味のエンベロープについては「先味、中味、後味」と絡めて下記でも説明していますので参考にしてください。
2.マイルドになる
アルコール揮発による変化
これは燗のつけ方次第でもあるのですが、燗をつけることでいくらかアルコールが揮発していきます。これによって、アルコールの刺激や硬さがとれ、柔らかくマイルドになります。
ただし、急激に高い温度まで上げるような燗つけをすると今度は逆にアルコールが強く感じられるようになります。いわゆる昔ながらの「辛口」が好きであればいいんですが、バランスも崩れるし、まとまりを欠くものになりがち。なので、あまりお勧めはしません。
五味の温度変化
マイルドになるのはもう一つ大きな理由があります。
人間は温度によって基本五味、すなわち甘・酸・旨・苦・塩の感じ方が変わるのですが、それが大きく影響しています。
よく使われる例として、アイスクリームは温度が上がって溶けると甘すぎて食えたもんじゃない、というのは聞いたことある人も多いでしょう。
このように、 五味はそれぞれ温度で感じ方が違います。一説によれば、体温に近いところがもっとも甘味旨味を強く感じられるとか。
この変化によって、旨味と甘味の感覚が増し、苦味は弱くなります。酸味は変わっていませんが(※)、甘みが増すことで相対的に弱く感じられます。その結果全体がまろやかでふくよかな印象になるのです。
※酸については、その成分によって温度が上がると強く感じられる場合もあるようです。
参考:清酒に含まれる有機酸の酸味と飲用温度の関係(2011)- 島津善美, 藤原正雄, 渡辺正澄, 太田雄一郎
3.香りが強くなる
香りの強い吟醸酒などで試してみると分かりやすいですが、温めることで香りが揮発しやすくなり、強く感じられるようになります。
香りが弱いお酒ならば、ほどほどに芳香を感じられるようになりますが、逆にもともと香りが強い場合、時にはむせ返るほどになります。
一般的に生酒や吟醸系の酒は燗すべきでないと言われるのはこのためです。
ただし、仮に大吟醸であっても香りが弱いものは多くありますので、あまりそこにとらわれてはいけません。
4.旨みが増す
温度による五味の感じ方の変化もありますが、温めることで物理的に旨味成分が増加するようです。乳酸が有機酸系のアミノ酸に変化するとのこと。
それ以外にも、水分子がどうのとか、結合がどうのとか、クラスターがどうのとか、化学的にいろいろ変化は起こるみたいですが、皆さんそこまでは興味ないと思うので割愛します。
とにかく、化学的にも旨味は増える、と。それだけ分かっていただければ。
ペアリングの観点から
それでは次に、これらの変化を含めて燗することでペアリングにどのような影響を及ぼすのか考えていきます。
1.温度を合わせることで親和性が高まる
まずはこれですよね。料理の温度に酒の温度を近づけることで親和性が高まり同調しやすくなります。
2.脂肪を溶かす
燗酒によって口中温度が上がることで脂肪が溶けやすくなります。これによって後口のキレが良くなり、次の一口を誘います。脂が溶けることで、料理のくどさを緩和しつつ、脂の旨味を更に感じやすくします。
ちなみに牛肉の脂肪の融点は40~50℃、豚は33~46℃、鶏は30~32℃と言われています。
3.テクスチャーの変化
これは使い方次第ですが、燗でまろやかさが増すと、液性にとろみを感じられるはずです。これによって、同様にとろみのあるテクスチャーの料理に同調させやすくなります。
4.旨みの相乗効果
これも大きいポイント。燗による旨味の増加が、料理の持つ旨味との相乗効果を引き出します。
まとめ
どうでしょう、お燗、つけたくなってきたんじゃないですか?このあたりを理解しておくとペアリングの際にきっと役立つと思います。
さて次回ですが、実際に燗をするにあたって、どんな酒を選んだらいいのかを解説します。お楽しみに!