巷でよく聞く言説「ご飯(白米)に合う食べ物は日本酒とも合う」。これって本当でしょうか?ほとんどの人は何となく雰囲気で発言してるだけなんでしょうけど、どこか違和感があって気持ち悪いので、この際深く考察してみようと思います。
結論としては「ご飯に合うものであっても、必ずしも全ての日本酒と相性がいいわけではない。」ということになります。
「どちらも米から作られている」から合う?
ご飯に合うものは日本酒にも合うと言われる根拠として、もっともよく聞くのが「どちらも米から作られているから」という理由。これが私をモヤモヤさせる一番の原因のようです。
確かに、同じ材料から作られていれば共通点が多いはずなので、どちらとも合うのでは、と思いたくなる気持ちはわかります。しかし、実はその共通点以上に差異のほうが大きい気がしています。
日本酒は多種多様
ご飯は一般的な食米であれば、どれを食べてもだいたい同じ味ですが、日本酒は違います。明らかに味の振れ幅が大きい。
フルーティで甘い酒もあれば、熟成して旨みが濃厚な酒もある。爽やかで酸が効いている酒もあるし、発泡にごりもある。これだけ多様な味わいを持つ日本酒を一括りにして、原料が同じだからと言って、ほぼ単一の味であるご飯と安易に結びつけてしまうのは無理があります。
ビールとパンはどうなのよ
同一原材料論がまかり通るなら、同じ麦から作ったビールとパンにも当てはまるよね?
つまりパンに合うものはビールにも合わないとおかしいわけで、じゃあジャムとビールが合いますかって話です。まあ、ジャムはちょっと意地の悪い例かもしれませんが。
もちろん、ビールとパンに共通して合うものはたくさんありますが、それらは麦の風味がキーになっているのでしょうか?正直そうは思えません。
どちらもいろいろなものに幅広く合わせられるから、単に重なる部分が広いだけですよね。
日本酒に合う食べ物はご飯にも合うはず
日本酒とご飯、それぞれに共通する味覚の成分があったとしたら、それがキーになってくる可能性は否定しません。実際日本酒に米の味を感じることは多々ありますし。
では、それを根拠とするなら、ご飯と日本酒が逆でも通用するはずですよね。つまり、日本酒に合うものはご飯にも合わないとおかしい。
日本酒は豆腐と合いますがご飯はどうでしょう。白身魚の刺身は?塩で食べる天ぷらは?酢の物は?サラダは?チーズは?どれも一般的にはご飯と合わないと答える方が多数派だと思います。
特にこうした淡い味わいの食べ物は吟醸系の淡麗な日本酒と好相性ながら、ご飯には合わないのです。
原材料が同じであることは根拠にならない
ここまで見てきて、少なくとも「どちらも米を原料にしてるから」という理由は根拠になりえないことが分かっていただけたかと。
パンにしろご飯にしろ、主食となるものはそれ自体に味はほとんどないわけで、そのおかげで大抵の食い物と合わせられてしまうのです。それだけ幅の広いポテンシャルを持っていれば、そりゃ日本酒と共通して合う食べ物だってたくさんありますよ。
原料云々は別としても、実際に合うんだから仕方ないじゃないか、と反論されそうなので、もう少し具体的に見ていきましょう。
料理・食べ物の検証
「ご飯のお供」
だいたい、この言説を持ち出す人がイメージしているのは、いわゆる「ご飯のお供」と言われる味の濃い食べ物だと思います。
すなわち、漬物、鮭フレーク、佃煮など。確かにご飯にも合うし、どんなタイプの日本酒でも無難に合わせられますね。
ですから、これだけを挙げて合うか合わないかと問われれば「合う」と言わざるを得ません。
※追記:読者様より、塩辛に関しては合わせる日本酒によっては生臭みを助長するものもあると指摘いただきましたので、ここでは抜いています。
その他のご飯に合う料理・食べ物
次は「ご飯のお供」以外で、ご飯と合う料理や食べ物をとりあえず思いつくままに挙げて考証してみます。
うなぎの蒲焼
濃くて甘みが強いので、それなりにボディがしっかりしてないと酒が負けます。基本的には熟成酒が好相性だと思いますが、適当に選ぶと微妙な結果になるのは間違いありません。
煮物
煮物といっても幅広いので、ここでは炒り鶏あたりをイメージしていきます。
これは、火入れの純米系なら比較的幅広く合わせられますが、淡麗だったりフルーティな酒は合いませんね。
味噌汁
味云々の前に同じ液体同士の汁物と酒ってのは一般的に受け入れられづらい気がしますが、どうなんでしょう。
味噌の風味は日本酒と相性がいいんですが、これもまた何でもいいわけではありません。少なくともフルーティな酒との相性は悪そうです。
焼き魚・煮魚
白身か青魚か、また塩焼きか照り焼きか煮つけなのか、さらには調味料によってもそれぞれ完璧にマッチする酒は変わってきますが、 それでも比較的組み合わせが容易なのが魚のすごいところ。
味の濃さに多少の誤差があっても、それなりに合ってしまうんですね。日本酒には魚の臭み(トリメチルアミン)を消す効果があるので、そういった点からも相性がいいんでしょう。
焼肉
肉に合う日本酒がたくさん出てきているし、そういうお店も増えてきていますが、やはりこれも何でもいいわけではありません。
基本的にはボディが太くて酸がしっかりした火入れ純米酒、しかも燗映えするものを合わせるのがセオリーです。それ以外では淡麗で酸が強めの酒、もしくは活性にごりなどの発泡系であれば、ビールのようにウォッシュのイメージで合わせることもできますが、いずれにしろ明確な意図をもって選ばないと悪い取り合わせになります。
生卵+醤油
いわゆるTKG(卵かけご飯)ですね。溶き卵に醤油を垂らしたものをすすりながら日本酒を飲む…うーん、想像するだけで変態っぽい。
しかし意外なことに味的にはそれなりにいけます(実際試しました)。とはいえ、ご飯と比べたら雲泥の差。日本酒は「合わなくもない」くらいのレベルです。生卵とベストマリアージュと言える日本酒を探すのはなかなか困難だと思います。
カレー
ご飯と言えばカレーでしょう。実際、スパイスカレーやタンドリーチキンとも合わせてますので、いけないことはないです。ただ、やはりテクニックは要ります。
まず厄介なのは辛みで、これが日本酒の繊細さを殺してしまうんですね。ですから、タンドリーチキンの時のようにそれを和らげる酒を選ぶか、もしくはそもそも辛み系スパイスを控えめにして日本酒に寄せたカレーを作るか。
いずれにしろ選ぶ日本酒はスパイスの強度に負けない濃い目でどっしりしたもの、例えば生熟成とか燗酒系とかであれば合わせやすくなります。
とにかく、それなりの知識と工夫は必須になりますよね。
なお、これは中華(四川系)や韓国料理など辛みの強いものでも同じように考えることができます。
ここまでのまとめ
例としてはこのくらいで充分でしょう。見てきた通り、味の濃いお供系と魚系を除いてはどれも合わせられなくはないけど、それなりの経験値や知識、テクニックが必要であることがわかりました。
言い方を変えれば、合う日本酒もあるけど、合わない日本酒もあるということになります。
はい最終結論をもう一度!「ご飯に合うものであっても、必ずしも全ての日本酒と相性がいいわけではない。」
最後に
まあ、自分でも大人げないっていうか、こんなん別に適当に言ってるだけなんだし、放っとけよと思わなくはないです。多くの人にとっては激しくどうでもいいことでしょうし。
多分、これ言う人ってそれほど深くは日本酒やペアリングと向き合ってないと思うんです。だって、ちょっと考えたら「同じ米だから」とか明らかに話としておかしいって分かりますもん。
そういうライトな姿勢で日本酒と接する人を否定してるわけではありませんよ。ライトユーザーがいなきゃ裾野は広がっていかないですから。ただ、日本酒のプロを自称するライターや名ばかりの利き酒師、はたまた蔵人までもが、そんな適当なことを言ってるんです。それがどうにも納得いかない。(あえて分かりやすくするためにとか、そういう意図を持っての発言であるなら分かりますが、果たしてそんな人がどれだけいることやら。)
あんたら曲がりなりにもプロなんじゃないの?日本酒を啓蒙する立場の人間がそんなだったら、今後日本酒の文化的なレベルも上がっていかないと思いますけどね。
と、ひとしきり吠えたらおなかが減ったので本日は終わりにします。
ではまた!