日本の酒と音楽のペアリング
今回から「日本の酒と音楽」のペアリングについて記事を書いていきます。ペアリングの相手は何も食べ物だけじゃありません、素敵な音楽とそれに合わせた日本酒を嗜むってのも、また楽しいんじゃないでしょうか。
自分自身、DJをやっていたこともあってジャズ、ソウル、メタル、テクノ、ハウス、現代音楽、歌謡曲やアイドルまでまあまあ幅広く聞くんですが、相手が日本酒だけに、ここはやはり音楽も日本産にこだわって扱っていこうかなと考えています。
というわけで、 記念すべき1発目はCharaの”Baby Bump”を選びました。
Chara – Baby Bump × 辨天娘 純米酒 五百万石 25BY
アルバム全曲に漂う浮遊感
Charaは一通り聞いてきて、大沢伸一が手掛けたラヴァーズロックの名曲”Junior Sweet”とか単体で好きな曲はありましたが、正直そこまでハマることはありませんでした。
しかし、2018年もそろそろ幕を閉じようとしているこの時期にきて、何ですかこのすごいアルバムは。
冒頭の”Pink Cadillac”はZAPPをモロにオマージュしたパワフルなファンクで思わずのけぞり、かと思うと抑えめでいなたいハウスであるアルバムタイトル曲”Baby Bump”が浮遊感を演出。動画を貼った”愛のヘブン”は耳馴染みの良い今どきっぽいミッドテンポのポップスでこれもいい。
白眉は”赤いリンゴ”で、ふんわりしたピアノとボーカルだけの静かな構成からじわじわと盛り上がり、後半ではしなやかな強度を持った展開に。まるで小坂忠のような癖のある70年代シティポップの雰囲気に浸ることができます。
アルバム通して全曲に何とも言えない浮遊感があり、それが統一感につながっているんですね。
Charaの中にあるブラックネス
Charaの声や唱法はご存知の通り独特で、黒人とは似ても似つかず、決してブラックミュージックとは言えない。それでもこれはソウルなんだよね。誰が何と言おうと。恐らく彼女のルーツの一つにブラックミュージックがあるんでしょう。それが完全に彼女の中で昇華された形で歌にも表れています。
今回の楽曲そのものがR&Bやソウルに寄ったものであることは確かなんだけど、楽曲やアレンジレベルの話じゃないんですよ。洗練された中にも深みを感じさせるのは、彼女自身が持つ熟練による凄みというか、ここまでの長いキャリアがあってこそなのかなと。
と、このあたりで思い浮かんだ日本酒が辨天娘。
辨天娘
基本は鳥取の酒らしく燗上がりする骨太な純米なんだけど、意外に旨味が軽くて名前の通りどこか女性的な繊細さも感じ取ることができます。そして温めると違和感なくじんわり染み入る母性。彼女の唱法よろしくクセはあるが、どこか優しく、ハマると抜け出せない。そんな魅力が詰まった素晴らしい酒です。
今回取り上げた酒自体は4年熟成なんだけど、この銘柄はいずれも新酒だと固くて渋みもある未完成な酒なんですよ。完全に熟成前提で設計されてるんですね。熟成してもソトロンによるいわゆる焦げ臭はほとんどなく、全体を丸くしてまとまりを出す方向に変化します。やっぱりこの深みは熟成させないと出ないですよ。
Charaの新譜を聞きながら燗を付けた辨天娘を含むと、ちょうどそんなところがシンクロして音楽に更なる広がりを与えてくれるのでした。
ではまた。