スパイス/エスニック

フライドチキンには淡麗辛口の普通酒が合う

フライドチキン

フライドチキンに合う酒といえば、どう考えてもビールですが、そこをあえて日本酒で行くのがこのサイトのアイデンティティ。

よく、ライトな感じで日本酒を紹介するサイトなんかでは、濃醇な純米酒が合いますなんて書いてありますが、果たして本当でしょうか。

フライドチキン

あんまり自宅で作る人はいませんよね。

ほとんどはケンタッキーか、スーパー、コンビニの出来合いを購入されるかと思います。

店によってまあまあ味も変わりますが、鶏肉をスパイシーに揚げた料理という意味で、大きく逸脱することはないでしょう。

味の分析

五味

ここでは手軽なファミチキを例に分析します。

まずは五味を数値化すると塩2甘0.5酸0旨3.5苦0.5くらい。ここに脂のコクが加わります。

なんというか、五味だけに限定しちゃうと、チャート的に色気がないというか…まあ、ジャンクフードなので当然か。

スパイスによる香り

ただ、ニンニク、ショウガを含めたスパイスによる香りの要素は見逃しちゃいけません。

ちなみに、ケンタッキーで使う11種類のスパイスは以下だそうです。

  • オレガノ
  • チリパウダー
  • グランドセージ
  • 乾燥バジル
  • 乾燥マジョラム
  • コショウ
  • パプリカ
  • オニオンソルト
  • ニンニク
  • グルタミン酸ナトリウム

塩とかグルタミン酸ナトリウム(旨味調味料)ってスパイスって言っていいのか…?

まあとにかく、これらの絶妙な配合であの美味しさを生み出してるわけですね。

コンビニのものはここまで複雑な風味はなく、ニンニク、ショウガ、コショウがメインでその他のスパイスは入ってたとしてもほんの少しと思われます。

合わせる日本酒を考える

今回は消去法です。

どういうことか。

実は、合うだろうと予想した酒がことごとく外れやがってですね、最後にたどり着いたのが表題にもある淡麗系の普通酒だったんです。

では、ハズレの系譜をご紹介していきましょう。

ハズレの系譜

濃醇系の重たい酒

揚げ物=ガッツリ系なので、酒も同じようなどしっと重いやつ、と考えがちですが、これは意外に合いませんでした。

明らかに日本酒のほうが強すぎちゃっててバランスが悪くなるんですよ。

これは生酒でも火入れでも同じでしたね。

古酒

スパイスときたら古酒というのは一つのセオリーなんですが、これも同じく重くてダメ。

香りの部分の相性は悪くなかったんですけど。

酸の強い酒

ならば、とちょっと方向を変えて、脂をスッキリ流すために酸が効いた酒はどうか。

揚げ物にレモンをかける感覚で合うんじゃないかと踏んだんですが、これもイマイチ。

確かに食後の爽快感はいい感じなれど、いわゆる日本酒特有の米っぽい風味とフルーティな香りがチキンとミスマッチ。

スパークリング

揚げ物のクリスピーな食感にはシュワシュワの炭酸を合わせるのもセオリーの一つ。

んー、これも狙った部分はいいんだけど、味わいの点でイマイチ。

このとき合わせた日本酒がたまたま甘すぎたこともあって、そこがどうも気持ち悪い。

ここまでを考察

ざっくり4種類を紹介しましたが、実は他にも5種類くらい合わせてます。でもやっぱりダメ。

全てに共通していたのが、序盤の日本酒の甘味と米の風味(旨味)、そして酸が邪魔になっているということ。

これって日本酒の味を構成する要素のうち、ほとんど全部じゃないか!

フライドチキンのベースになる鶏肉そのものの味わいって案外淡白でのっぺりしているんですね。そのベースの上に塩と油とスパイスで色付けしてるイメージです。

で、日本酒の甘味と戻り香(風味)酸味が、その淡いベースと重なると、やけに悪目立ちするんです。

でも、この部分の味わいこそが日本酒のキモとも言えるわけだし、ここがダメならもはや日本酒はあきらめたほうがいいのでは、とも思いましたが、そういえばひとつ試していないタイプの酒がありました。

それが、淡麗辛口です。

このタイプの代表的銘柄でもある八海山の普通酒は、酒自体ではピンと来なくても食べ物と合わせることで驚きのペアリングを見せることがしばしば。

なので、最後にこのオールマイティな酒に賭けてみることにしました。

五味チャートを重ねてみる

比較対象として、一般的なそこそこ濃醇系の酒も重ねてみましたが、上述の通りチキンのほうに甘味や酸がなく意外と淡白なので、そこの部分でチグハグになっているのがわかります。

八海山も、その意味では同じですが数値が小さい分、悪目立ちはせずバランスが取れてるようにも思えますね。

実食!

まずは八海山だけを含む。

うーん、やはり甘味と酸味が極端に弱い。良く言えば透明感があるんだけど、どうしても単体では味気なく感じてしまう。

では、ファミチキを一口。ある程度咀嚼したら、飲みこむ前に酒を流し込んで口内調味してみよう。

最初は水かと思うくらい酒の味を感じず存在感が非常に希薄だが、ある地点から急に旨味が発現してチキンとリンクする。チキンの旨味が酒によってほどよく補完されるイメージ。

実はこの最初のひっそり感が重要なポイントで、他のタイプの酒はここでいらぬ存在感を発揮するため、相性が悪くなる。

また、単体では好ましくないアルコール感が、後半の油っぽい口の中をリセットしてくれる効果も。

やっぱ、八海山は侮れないわ。

まとめ

八海山は吟醸とかグレードが上のものになると酸が出てきてイマイチ合わなくなります。

あくまで、味が薄くて醸造アルコールの風味を感じる普通酒がベスト。安めのパック酒やクラシックな新潟系銘柄の本醸造なんかでもいけます。

寄り添い系ペアリング

今回のペアリングは、日本酒ペアリングの基礎となる同調ともギャップともウォッシュとも異なる感覚。

これは淡麗辛口の日本酒に多く見られるもので、「寄り添い系」と勝手に呼んでいます。

あくまで主役は料理で、酒は一切主張せず少しだけ料理の味わいをブーストする感じ。

寄り添い系において、合わせるべき日本酒に味があることはマイナス!

悪く言えば、あえて「薄い酒」であるべきで、いかに甘みや酸を抑えられた造りになっているかがポイントです。

実はこれこそが伝統的な日本酒と料理のあり方でもありますが、ペアリングが注目され始めてからはむしろ軽視されている手法なので、なんとか体系化していきたいところです。

それではまた!